第1章 魔物が溢れる世界 4.初めての野営実習
魔弾のD
第1章 魔物が溢れる世界
4.初めての野営実習
野営実習 初日。
今日は見習いハンターとして初めての野営実習に出発する日だ。
いつもと同じ時間に起床し、日課の鍛錬を行い朝食を食べる。
「さ、みんな準備はいいか?出発するぞ」
「「「「「「はい」」」」」」
「D、調子づいて怪我とかするなよ。俺も建築の基礎をたっぷりと勉強しておくからな。どっちが先に一人前になるか競争だぞ」
「アル、わかった。お互い頑張ろう。いってきます」
Fランクハンタークラン サーロスⅡは孤児院を出発し、第二城壁の西門から魔物溢れる世界に足を踏み入れた。
季節は冬。いよいよ、五泊六日の野営実習が始まった。
この辺りは温暖な気候の為、雪は降っても根雪になる事はないが、吐く息が白くなる程度に気温は低い。
「よし、二列縦隊で城壁沿いに進む。進行方向、左右、後方に異常がないかよく観察するように」
リーダーの虎獣人ミーチャから指示が出た。
サーロスⅡは、基本的にはツ―マンセルを最小単位として行動する。
予め決めてある隊列となった。
前後左右の間隔は二m程度。
先頭は副リーダーの魔法士ソウサと女槍士ゾフィ、続いてリーダーのミーチャ女虎獣人槍士と俺、教官オーデル犬獣人とフェム姉魔法士、殿がカトル兄とアーシア女魔法士となる。
今年のサーロスⅡは、この八人のメンバーで一年間行動を共にすることになる。
「D、今年一年は最年長の私がバディだ。ハンターの基本をみっちり仕込んでやるから覚悟しておけよ。
早速だが城壁側のメンバーは、城壁が魔物によって悪さされてないか点検する役割がある。
これもハンターの仕事の一つだから覚えておけよ」
「了解。ミー姉、宜しくお願いします」
およそ一時間で第二城壁北門の場所に着いた。
特に異常なしだ。
「ここで、小休憩しよう。必ず水分補給をしておけよ。一息ついたら出発だ」
バックパックから水筒を取り出し、のどを潤す。
意外と緊張していたのか、水が美味い。
「ミー姉、移動中に喉が渇いても水を飲んじゃいけないの?」
「いや、水を飲むのはいつでも自由にしてくれていいぞ。保存食も同じだ。
ただ、水魔法を持ってない者にとって、水は水筒の容量に依存する。Dも水魔法は持ってないだろう?
配分をよく考えて飲まないとな。飲み過ぎて肝心の時に無いってなると、結構ヤバいからな。
特に夏場に水が無くて、止むに止まれず水たまりの泥水を飲んで腹を下し、動けないところを魔物に襲われてあの世行きって見習いハンターは多いからな。
まぁ心配するな、今年のサーロスⅡには私とソウサ、ゾフィ、アーシア、フェムと水魔法使いは豊富でな。
水筒の残りが心許なかったら早めに声をかけて補給してもらうんだな」
「ミー姉、よくわかったよ。たかが水だけど、いろいろ考えておくことが多いんだね」
「D、考えておかないといけないのは水だけじゃないぞ。
魔物の溢れる世界では、全ての事が城壁の内側の生活と大きく違うからな。
この世界での生き抜き方を少しづつ覚えていくんだ。まぁそのための野営実習だからな。
よし、休憩終了。
ここからが本番だ。隊列そのまま。北上する。目的地は拠点小屋ベースⅡだ」
サーロスⅡは小休憩後、進路を北に向けて進みだした。
いよいよ、魔物が溢れる世界へ突入する。
セイス周辺は丘陵地といった感じだったが、徐々に常緑樹と落葉樹の入り混じる林となった。
俺は景色の移り変わりに目を奪われていた。
「ミー姉、そろそろ薬草スポットになるけど、寄っていかないか?」
先頭を歩く副リーダーのソウ兄から声が掛けられた。
「そうだな。初日から具無しスープは避けたいねぇ。此処まで魔物とも遭遇してないし、寄っていこう」
隊列はやや右側に方向を変えて進軍を続けた。
やがて、樹木の疎らな冬の木漏れ日が多くそそぐ広場のような場所に着いた。
そこには、冬だというのに青々とした葉っぱに白い花を付けた高さ三十cm程の植物が群生していた。
「採取は私とDがやる。皆は周囲の警戒を頼む。D、私に付いてきてくれ」
「はい」
ミー姉は、採集用のナイフを抜くと、白い花の付いた植物の地面から五cm程のところで茎を切った。
「D、これは薬草だ。林の中や水辺の日当たりの良いところに群生している。よく形を覚えておけ。
この薬草は錬金術で作り出される回復ポーションの素材になる。ハンターギルド常時依頼の定番だよ。
料理の材料にも使えて、加熱して食べると疲労回復の効果がある。だが、生食はお勧めしない。
冬場は生育が遅いから、今夜の食事の分だけ採取しよう。
根と茎を残しておけば夏場だと数日で採集可能となる。さぁやってみろ」
俺はミー姉のお手本を思い出し、初めての薬草採取をニ十本程行った。
「うん、なかなか良い身のこなしだったぞ。採取した薬草は普通だと麻袋に入れて持っていくが、収納できるなら収納してくれ」
「はい。収納したよ」
「みんな、お待たせ。今夜のスープの最低限の具材は確保できたぞ。
肉が食いたければ、真剣に周囲を観察するんだな。
ソウサ、引き続き先頭を頼む」
サーロスⅡは再び進軍を開始した。
一時間程進んだ時だった。
先頭のソウ兄が徐に左手を挙げた。確か“止まれ”の合図だったな。
俺は、魔物がいるのかと思い、周囲をキョロキョロ見るが、常緑樹と枯葉の落ちた落葉樹と落ち葉しか見えない。
ソウ兄のハンドサインを見ると右手前方に何かいるようなのだが、その方向に目を向けても異常は感じない。
ハンドサインは続いた。“攻撃するから周囲警戒せよ”
やがて、ソウ兄がウォーターカッターの魔法を放った。
ソウ兄の魔法の向かう先を先読みして、初めて何かがいるような気がした。
ソウ兄のウォーターカッターは、俺がようやく目に捉えた何かに見事に命中した。
「よぉ~し、今夜は角ウサギの肉入りスープ確定だ。さぁ回収に行こう。警戒頼む」
ソウ兄がどうやら角ウサギを仕留めたようだ。
角ウサギは魔物とは違う野生の鳥獣の一種だ。
額に鋭い角を持ち、敵対した相手に突進してその角を突き立ててくる狂暴なウサギだが、それを見つけ出し、一撃で仕留めるとは。
サーロスⅡの在籍メンバーと見習い冒険者になりたての俺との実力差を見せつけられた思いだ。
角ウサギの解体は、拠点に着いてからという事で、仕留めた角ウサギをカトル兄が収納し、進軍を再開した。
木々の密度が濃くなり、遠くから聞こえる、今まで聞いたことのない叫び声も時折聞きながら進軍は続いた。
やがて周囲の木々が疎らになり、前方に大きな丘が見えてきた。
その丘には樹木がなく、丘陵のような感じだった。
「D、あの丘の頂上が今日の目的地だ。ようこそ、野営拠点、“ベースⅡ”へ」
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