第1章 魔物が溢れる世界 3.ハンターギルドセイス支部
魔弾のD
第1章 魔物が溢れる世界
3.ハンターギルドセイス支部
俺は、ディエス・ツーセン。五歳。
みんなからは、“D”と呼ばれている。
昨日、俺は見習いハンター試験に合格し、ハンターへの道を踏み出した。
今日はハンターギルドで、正式にハンター登録を行うことになっている。
日課の早朝鍛錬と朝食を済ませ、早速ハンターギルドへ向かって出発した。
今日はカトル兄が同行してくれるようだ。
俺の家族が生まれ育った孤児院サーロスは、第六大陸スィッタ第三の都市、公爵領セイスにある。
公爵領セイスは、現在民間に下野している前公爵スイップ爺ちゃん(孤児院サーロン設立者兼顧問)の時代に大きく発展を遂げたらしい。
現在は、公爵邸や港湾、各種ギルド、商業施設や多くの領民が住む公爵領中心部とそれを囲む第一城壁、その外側の広大な農地とそれを囲む第二城壁によって魔物から住民を守る、二重構造の都市となっている。
因みに孤児院サーロスは、第一城壁の西門を出た近くの農地の一角にある。
俺とカトル兄は第一城壁の西門を潜り、港と公爵邸を結ぶ一直線の大通り沿いにある、ハンターギルドセイス支部に向かった。
「カルト兄、いつ見ても第一城壁はデカいね。あちこちに焼け焦げた跡があるけど魔物溢れの時に着いたのかなぁ」
「ああ、だけど今は第二城壁の方がもっとでっかくて堅固なんだぞ。
城壁の作り方もかなり違うし、魔物溢れへの耐性も数倍強いらしい。
でも、第二城壁が出来てから五十年以上経つらしいけど、セイスには一度も魔物溢れは来てないらしいから、ちょっと疑わしいけどな。
お、あの赤いレンガの建物がハンターギルドだぞ。
Dもこれから依頼の登録や魔石の換金で来ることがあるだろうから場所覚えておけよ」
「うん。もう覚えたよ。でもすごい賑やかな場所なんだね」
第一城壁の中は、活気に満ちていた。行き交う馬車や人族は多く、孤児院のある長閑な農場地帯とは別世界だった。
しかも、ハンターギルドの入口のある通りは、馬車が四台ほど同時にすれ違う事ができそうな広さだ。
「ああ、此処が一番の大通りだからな。海の方に行くと港があって、城壁と同じくらい大きな船が何隻も停泊していることがあるぞ。
港の反対側には侯爵邸があって、この通り沿いには各種ギルドや商会が並んでるまさしくセイスの中心部だからな。
さ、ちゃっちゃとハンター登録しちゃおうぜ。
早めに戻らないと明日からの実習準備が終わらないぞ」
カトル兄はそう言うと、慣れた様子でハンターギルド入口の扉を開け、中に入っていく。
俺もカトル兄と離れないよう、すぐ後について建物に入った。
「あら? カトルじゃない。どうしたの? あれれれれ? もしかしたら、一緒に居るのはD?
あ! そうか、そうか、Dおめでとう。
見習いハンター試験に合格したのね。
まぁ、あんたなら落ちるわけないでしょうけどね」
「ポーム。此処はハンターギルドよ。そしてあなたは正式に採用されたギルド職員よ。受付係としての仕事をなさいな」
「あ! こほん。ようこそハンターギルドセイス支部へ。今日のご用件は何ですか?」
「お早う、マランザ姉、ポム姉。ポム姉の言うとおり、Dのハンター登録手続きを頼
むよ」
「あれ~? なんでマランザ姉ちゃんとポム姉ちゃんがいるの?」
「D、説明は後でするから今はお話は我慢だ。ポム姉、急いでるから、ちゃっちゃと
Dの手続きを頼む」
「D、この紙に名前と住まい、所属クランを書いてね。後はお姉ちゃんがちゃんとや
っとくから」
俺は渡された紙にディエス・ツーセン、孤児院サーロス、サーロスⅡと書いて、ポム姉に渡した。
「うん、字は間違いなく書けてるわね。はい、これがGランクハンターの印よ。
これは魔道具になっていて、魔物を一定数倒すと白く輝くの。
その時はギルドで申請してね。
Fランクに昇格よ。印もFランク用と交換するから落としちゃだめよ」
俺はゴブリンの魔石風のガラス玉の付いた革ひものネックレスを首にかけてもらった。
俺はハンターランクG級(見習いハンター)に正式登録された。ハンターデビューだ。
その後の短い立ち話で思い出した。
マランザ姉ちゃんもポム(ポーム)姉ちゃんも孤児院サーロスで一緒に生活してたけど、成人(十二歳)になった時に、ハンターギルドの職員となり、孤児院を出てハンターギルドの寮に移り住んでいたんだ。
孤児院で生活している仲間はみんな家族同然で仲良しだ。ハンターギルドで会ってもついつい兄妹のように話してしまうのはしょうがないよね。
マランザ姉ちゃんはカトル兄より年上でハンターギルドの若手有望職員、ポム姉は今年から職員となった新米だって後でカトル兄から教えてもらった。
「カトル兄、俺のハンター登録に付き合ってくれてありがとう。急いで帰った方がいい? 」
「そうだなぁ。ポム姉のマイペースのせいでちょっと押してるかもな。走って戻るか?」
「ちょっとやりたいことがあるんだ。昨日のレベルアップからメタスが騒いでるんだ」
「メタスってDの妖精の一人だっけ? しょうがないな、悪戯だけはやめろよ」
「多分、大丈夫だと思う。メタスは俺が小さい頃から今までいたずらをしたことないから」
俺はカトル兄の手を握り、孤児院サーロスの周辺を囲む柵の門の場所をイメージした。
「転移!」
ハンターギルドの表通りの景色が一瞬ブレて元に戻った時、俺とカトル兄は孤児院サーロスの門の前に立っていた。
転移の魔法は大成功だった。
だが、魔力消費が大きい様でやや魔力切れの感覚だ。
<今は、まだこれくらいの距離が限界よ。レベルアップを繰り返せば一度行った事のある場所に転移できるからね>
俺の頭の中に転移の妖精メタスの声が響いた。
俺とカトル兄が孤児院サーロスに戻った時はちょうど昼食の時間だった。
塩胡椒の程良く効いた根菜スープに硬くなったパンを浸して空腹を満たすと、明日からの野営実習の準備に追われまくった。
サーロスⅡメンバーは野営実習(五泊六日)と孤児院で過ごす四日を一ルーティーンとして月三回の野営生活を送ることになる。
明日の早朝には野営実習に出発となる。
孤児院の厨房からは香ばしい匂いが漂ってくる。
小麦粉と木の実を混ぜて焼き上げたハービス(携行保存食:薄めの塩味)の匂いだ。
焼き上がったハービスはいくつかの樽に詰めて、野営実習の主食として持っていくことになる。
ハービスを作るのはもちろん野営実習に参加するメンバーだ。
その他、野営時の料理用としての調味料(塩・胡椒・セイユ・砂糖)や、個人携行用として予め作ってある保存食の燻製肉、燻製魚などを準備していく。
武器防具の手入れをし、保存食、水筒、雨具、毛布、着替え、砥石、石鹸、食器等をバッグパックに詰め込む。
ここで重宝されるのが収納の妖精持ちだ。
準備されたものを一カ所に集めて過不足が無いことを確認後、次々と収納していく。
俺も収納の妖精持ちなのでいわれるがままに収納していく。
今年のサーロスⅡの収納持ちは俺とカトル兄の二人いるので、準備した物は余裕で収納できたようだ。
夕食時は少し緊張した雰囲気が漂うが、子供の空腹を満たすのに理由はいらない。
いつもの塩胡椒の程良く効いた豆のスープと硬くなったパンで至福のひと時だ。
「D、明日からいよいよお前が行きたがってた野営実習だな。魔物に遭遇したら瞬殺
して、たくさんレベルアップして来いよ。さて、五杯目だ」
俺の親友でライバルのアルは、今夜も平常運転だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます