第1章 魔物が溢れる世界 2.孤児院サーロス

魔弾のD

第1章 魔物が溢れる世界

2.孤児院サーロス


 俺は、ディエス・ツーセン。五歳。

 みんなからは、“D”と呼ばれている。


 初めての魔物との戦いを無難にこなし、見習いハンター試験に俺は合格した。

 試験を見守ってくれた家族と共に俺達の家、孤児院サーロスに戻ってきた。


「D。お帰り。その様子だと合格だな。流石俺の相棒だぜ。

 プリンの御預けは辛いからな。良かった、良かった。夕飯が楽しみだぜ。今夜も負 

 けないからな。」


「アル、ただいま。もちろん合格だよ。レベルアップもしたぞ。

 でもお前は良かったのか? 見習いハンター試験を受けなくて。

 お前の実力なら間違いなく合格すると思うぞ」


「何度も言わせるな、D。

 人にはそれぞれ適正ってものがあるって、スイップ爺ちゃんやトリー婆ちゃんがいつも言ってるだろ。

 俺は第六大陸スィッタで一番の建築家になってハンターとは違う役割だけど、人族の為に貢献するんだ。

 今日も、弟子入りしたシャジャラ工務店で木工を習ってきたんだぞ。

 大人への階段は俺の方が先に昇ってるぜ。

 俺の妖精たちと一緒にな。

 さぁ、とっととエッリ院長に報告して来いよ。夕飯の時間が遅れちまうぞ」


 孤児院サーロスに到着早々、俺に声を掛けてきたのは“アル”こと、アルボルだ。

 孤児院サーロスで、物心がついた時から生活を共にしてきた同い年の俺の親友兼ライバルだ。

 アルは剣術も俺と互角の腕前なのに、ハンターではなく建築家を目指している。

 アルは世界でも稀な“工作”の妖精持ちなのだ。

 俺と同い年だが、アルにはアルの魔物との戦い方がある事を既に理解している天才だ。

 俺はそんなアルが同い年の親友兼ライバルでよかったと思っている。

 

 


「みんな、今夜はお祝いの日よ。

 今年五歳になるディエスが、今日、見習いハンター試験に無事合格しました。

 そして私たちのハンタークラン、サーロスⅡのメンバーになりました。

 D、おめでとう。

 でも無茶はだめよ。年上の子の指示に従って、チームで戦うのよ。

 これからもサーロスの仲間が元気で健やかな生活が送れるように、共に頑張りましょう。

 大地の恵みに感謝を。

 いただきます」


 夕ご飯は、塩胡椒で程良く味付けされたトマトソースベースのスープに豚肉、芋、ニンジ、オニオ、キャベがゴロゴロと入った贅沢スープだ。

 付け添いのパンも焼き立てのようで、いい香りだ。

 総勢三十名弱の子供と大人が集まる食堂では、皆が一心不乱にガツガツとスープ、ゴロゴロ具材、パンを胃に流し込む。

 ゴロッとした豚肉は噛みしめる毎に旨味の脂が滲み出る。

 あ~贅沢だ。幸せだ。


 欠食児童が数日ぶりに食事にありついたような暴食の宴に、ふと気付けば甘く香ばしい匂いが立ち込めてきた。


 エッリ院長と、ヴィンテ副院長、エルバ先生がテーブルで食事を掻き込む一人一人に、黄色く輝くプリンの入った陶器のコップを配っていた。


「みんな、プリンはスープのお皿を綺麗にしてからですよ。スープのお代わりもまだたくさんあるから、お腹いっぱい食べてね」

 

 宴のボルテージは一気に高まった。


 アルとスープのお代わり競争をしていた俺は、四杯目のスープを完食した時にプリンの誘惑に負けた。

 そしてプリンを堪能する俺の耳に、五杯目のスープを飲み終えたアルの小さな声が聞こえた。


「うぷっ。Dよ。今夜は此処で勘弁してやるが、俺の勝ちだ。うプっ。でももう入らない。プリンは… 」

「じゃぁ、俺がアルのプリンもらうな。ご馳走様」

「あら? アル、プリンいらないのね。じゃぁ私が頂くわ。残すと罰が当たるからね」


 アルの反対隣りに座っていたフェム姉の手が、俺の伸ばした手より一瞬早くアルのプリンを掻っ攫っていった。

 

「…… 」 

「…… 」


 孤児院サーロスの御馳走の日は、弱肉強食の日となる。


 食ったもの勝ちだ。


 これも、あまたの狂暴な魔物で満ち溢れている惑星スィフルで生き抜く知恵なのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


設定補足:孤児院サーロス

第六大陸スィッタ 公爵領セイス 前公爵スイップ・スィッタ・ワヒドゥが設立。

設立時の院長は前公爵夫人トリ―・スィッタ・ワヒドゥ。

第六大陸スィッタ王国 現国王オン・スィッタ・ワヒドゥ即位に伴い、公爵領セイスを王弟オチョ・スィッタ・ワヒドゥが引き継ぐ(現公爵領セイス領主)。

それに伴い、前公爵スイップ・(スィッタ)・ワヒドゥ、前公爵夫人トリ―・(スィッタ)・ワヒドゥ民間に下野するが、孤児院経営を継続、現在に至る。

現経営体制

顧問 :前公爵スイップ・ワヒドゥ(スイップ爺ちゃん)

顧問 :前公爵夫人トリ―・ワヒドゥ(トリー婆ちゃん)

院長 :エッリ・ワヒドゥ (スィップ、トリーの娘)

副院長:ヴインテ     (トリ―の元護衛兼付き人)

先生 :エルバ      (エッリの元護衛兼付き人)

およそ二十名の身寄りのない未成年者(幼児含)を育成中。

教育方針:人・獣人同士では決して争わない、魔物溢れは当たり前、絶対負けてはな 

     らない

    :自分に厳しく、他人に優しく 強きに向かい弱きを守れ

    :魔物と戦える最低限の戦闘能力の育成 武術習得・魔術習得・実戦経験習  

     得

    :社会を渡り歩ける最低限の教育 読・書・計算・惑星スィフィルの歴史、

     武術、魔術

カリキュラム:三歳から基礎学習・鍛錬始まる

      :五~十一歳 菜園畑の世話、近所の農家等の手伝い(繁忙期)

その他:Aランクハンタークラン サーロス本拠地

    Fランクハンタークラン サーロスⅡ本拠地




設定補足:D ディエス・ツーセン家族

父 ビン・ツーセン A級ハンター兼サーロスリーダー

母 パイ・ツーセン A級ハンター兼サーロス副リーダ―

父、母共に幼い頃魔物溢れにより天涯孤独となり、孤児院サーロスに引き取られる

その後、ハンターとなりサーロス加盟

ある都市の魔物溢れ討伐の功績により第六大陸スィッタ国王より“ツーセン”の姓を下賜

成人・結婚後も孤児院サーロスを拠点としている。

実子も孤児院の子供と一緒に生活をさせている

長男カトル・ツーセン  サーロスⅡメンバー

長女フェム・ツーセン  サーロスⅡメンバー

次男ディエス・ツーセン サーロスⅡメンバー(NOW!!)

三女セセンタ・ツーセン(双子) 

四女セテンタ・ツーセン(双子)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る