魔弾のD ~魔物が溢れる恐怖の世界を颯爽と駆け抜ける
yoshi30
第1章 魔物が溢れる世界 1.見習いハンター試験
第1章 魔物が溢れる世界
1.見習いハンター試験
「魔弾!」
突き出した左掌から直径五cm程の赤黒い魔力の塊が、ショートボウで放った矢程の速度で進み、十m程先のゴブリンの鼻柱に命中した。
“ドゴン”
「グゲェ?」
「グゲェ?」
魔弾が命中したゴブリンは頭部を破壊され無言で絶命。
背中からゆっくりと崩れ落ちていく。
左右に居た仲間のゴブリンは何が起きたのか判らずに混乱しているようだ。
背中からゆっくりと崩れ落ちていく仲間を呆然と見つめている。
<残り、二匹>
俺は短剣を抜き、一気に無防備な二匹のゴブリンとの間合いを詰めた。
「ふん!」
“ぐざぁ”
「グギアァァ… 」
向かって右側のゴブリンの胸元に、短剣が深々と突き刺さり、その息の根を止めた。
胸元を貫かれたゴブリンは白目を剥き絶命したようだ。
<ん? 抜けない… >
「ガアァァァッ」
残りの一匹がようやく戦闘本能を取り戻し、俺に向かって鋭い爪の付いた手で殴りかかってきた。
俺は短剣から手を放し、後ろに飛びのき、間一髪ゴブリンの攻撃を躱した。
「魔弾」
“ドン”
「グギアァァ」
至近距離で放たれた魔弾は、狙い違わず相手の鼻柱に命中した。
が、頭部破壊には至らなかったようで、ゴブリンは両手を顔に添えて痛みに苦しんでいる。
俺は再度後ろに飛びのき、間合いを取ると、落ち着いて魔力を練り上げる。
「魔弾!」
“ドゴン”
三発目の魔弾はゴブリンの頭部を破壊し絶命に至らしめた。
<ふ~。やったか。周囲に敵は… いないようだな。処理に移ろう。ん? これは… ああ、これがレベルアップか。魔壷の辺りがじんわりと温かく感じるな>
俺は初めて経験する魔物を倒した高揚感よりも、同じく初めて経験するレベルアップの感触を楽しむべく、掌を丹田の辺りに添えた。
<うふふ。やっとね。もっと、もっと、も~っと強くなってね>
俺の魔壷に住む妖精の声が聞こえた。
俺のレベルアップを喜んでくれているようだ。
俺は剥ぎ取り用のナイフを抜き、深々と突き刺さった短剣を回収し、絶命した三体のゴブリンから魔石の取り出しと、頭部の切断処理を始めた。
ゴブリンの左胸にナイフを突き刺すと五cm程の深さのところで刃先に“コツッ”と当たる感触があった。
切れ込みを十字に入れ、魔石をえぐり出した。
ゴブリンの魔石は、奴の黒い血がこびりついた直径一cm位の灰色の玉だった。
周囲には絶命したゴブリンから流れ出る黒い血の匂いが濃く漂う。
俺は三体から魔石を取り出し、頭部切断を終えた。
「終わったよ」
「よし、そこまで。どうだ? D。レベルアップもしたようだな。吐き気とか、眩暈とかはないか?」
「…うん。大丈夫」
「そうか。じゃぁ魔物との初戦闘を振り返って採点をしようか。
まずは、魔弾だが三歳の頃だったかな? 初めて見せてもらったのは。
あの時のアドバイスを汲んで火と土の属性を練り込んでるようだが、よくぞここまで鍛え上げたな。
速度、威力、ばらつきはまだまだ改善の余地があると思うぞ。
魔弾はお前だけの特異魔法だ。絶対に切り札になるから今後もいろいろと工夫したらいい」
「うん、わかった。魔弾一発でゴブリンを倒せると分かって嬉しいよ!」
「そうだな。そこは自信を持っていいが、言った通りまだまだ改善の余地は無数にあるからな。
次に剣術だ。鉄の短剣だから切れ味は悪い。
それを見越して相手に突き刺し、抜けないと感じて手を離したところまでは良かったぞ。
今回は身体強化を使用禁止にしたが、基本的な技術とパワーがまだまだ不足している。
ちなみにだけど、突き刺す時に捻りを加えたりすると抜けやすくなるぞ。練習するといい。
剣術は魔力が底をついた時の命綱だ。
剣術が上達し、パワーも付けば魔力の節約にも繋がり、継戦能力も高くなる。
魔物との戦いに生き残るためにも、これからも鍛錬を続けろよ」
「はぁ~い」
「戦闘後の残心は出来ていたな。これからも絶対忘れるなよ。
死体の処理についてはまずまずだ。
こればっかりは経験を積まないとな。
というわけで、ディエス・ツーセン、見習いハンター試験は合格だ。
ようこそ、ハンタークラン サーロスⅡへ。
さ、孤児院に戻って、お祝いしよう。
今日はみんな大好きプリンの日だぞ」
「わぁ~い。やった~。父さんありがとう。ふ~、採点の時が一番ドキドキしたよ」
「D、おめでとう。お前なら一発合格だと思ってたぜ」
「カトル兄、ありがとう。これからも宜しく」
「D、でかしたわ。あなたが不合格だったらプリンはお預けだったのよ。夕ご飯が待ち遠しいわ~」
「チェッ、フェム姉はプリン目当てだったのかよ。まぁ俺もプリン大好きだからいいけどね」
「D、やったわね。明日からもビシビシ鍛えてあげるからね」
「母さん、やったよ。今までありがとう。でも魔法も剣術もまだまだだから、明日からも鍛錬お願いします」
「D兄、やった~」
「D兄、カッコよかった~」
「セセ、セテ、ありがとう。今夜はプリンが出るぞ。楽しみだな」
俺は、ディエス・ツーセン。五歳。
みんなからは、“D”と呼ばれている。
惑星スィフルは数多の狂暴な魔物で満ち溢れている。
そんな世界を生き抜くために、人族は妖精と共存し、その魔法によって文明を発展させ、手を携え戦い続けてきた。
数多の狂暴な魔物と最前線で戦うのは、ハンターと呼ばれる武術と魔法を極限まで高め、駆使する存在だ。
俺は今日、憧れのハンターへの道に最初の小さな一歩を踏み出した。
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