第5話 山田君の微笑は眩しすぎる

 私は驚いて布団の中で目を開けた。夢に驚いたのだ。全部は覚えていない。でも、眩しいほどの山田君の笑顔ははっきりと覚えている。


 山田君が私に微笑みかけた?


 その事実に驚いて目が覚めたのだ。

 高校時代には一度もなかったことだ。イタギモい妖怪女子に笑いかけるなんてあるはずがないのだ。

 私は横向きに寝たままでドキドキする胸を押さえた。


 冷静になって考えれば、単なる夢じゃん。本人がそこにいて笑いかけたわけじゃない。夢の中の山田君は妖怪女子が怖くないのだろう。なんたって夢だし。


 夢とは言え、相変わらず麗しい姿を堪能できて、そのうえ笑顔まで向けられるなんて、ものすごく得した気分。


 なぜ山田君の夢を見るかは分からないけど、夢の中の山田君が例え本当は妖や妖怪でもお礼言いたい気分。


 私はニヤつく口元を布団で覆いながら寝返りを打った。

 隣の布団で眠る夫の前頭部が仄かに光っている。ハゲって自家発電するんだ。私はぼんやり考えながらまた眠りに落ちた。




 私は戸外にいた。体操服を着ている。どうやらスポーツ大会らしい。ソフトボールのバッターボックスに立つ山田君を見ようと、たくさんの女子がグラウンドに集まっている。中には一眼レフカメラを構えている子までいる。


 私はそんな陽キャたちから離れてこっそり山田君を見る。スラリとした体つきも完璧。あのまま石膏で固めて着色して私の部屋に飾れないものだろうか?

 いや、そうするとひとまわり大きくなってしまうし、本人を石膏に閉じ込めたら、サラサラの髪とか、きれいな肌に触れられなくなってしまう。困ったものだ。


 素直に石膏で型を取って……。いや、サラサラの髪ときれいな肌問題は解決しないじゃないか。


 私は夢の中でそんなことに頭を悩まし続けた。

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片思いしていた山田君は夢の中なら優しい 壁児ラナ @little_gecko

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