第3話 片思いは甘くて苦い
教室の窓際でたくさんの男友達に囲まれて山田君が笑っている。横顔なのに笑って細めた目がキラキラしているのが分かる。
私は今日も猫科の動物。山田君のいる方角に体ごと向いている。
ふと、山田君がこちらを向く。
『えっ?! 目が合った!』
と思う間もなく、山田君は目を逸らす。その顔は見事なまでの無表情。
それでも嬉しい! 山田君と目が合った!
山田君と目が合った! よし! 次は会話だ!
さりげない会話に持ちこんでやる!
目が覚めて思った。
そりゃあ、あんなにガン見してたら視線にも気づくし目も合うよ。あの無表情は目が合った動揺、あるいは後悔を隠すためのものじゃん。
私は今さらながら山田君が気の毒になる。
これじゃあ、私はクラスにいる妖怪じゃん。山田君は用心深くその妖怪の存在に気づかないふりをして毎日を過ごしていたに違いない。
あのころの私にこれぐらいの分別があったら、山田君との恋の結末は少しは違ったものになっただろうか?
いや、無理だな。あのころは身の程知らずで自分の容姿にもとんと頓着しなかったが、どう贔屓目に見たって「かわいい」「きれい」とはほど遠い、どちらかと言うと不細工だ。あんなキラキラした男子と釣り合ったはずもない。
外はまだ暗い。中途半端な時間に目が覚めたらしい。それならもうちょっと夢を見ていたかった。
私は布団を頭からかぶって再び目を閉じる。脳裏にあの明るい教室の窓際を描いてみる。窓際の一団、その中央で笑っているのは山田君。
自分がイタギモい女でもいい、猫科のアホ女でも妖怪だって構わない。あの眩しい笑顔にもう一度会いたい。
私はひたすら睡魔がやってくるのを待った。また夢の中に落ちていくのを待った。
やがて、私は苛立ちのため勢いよく布団を剥がして起き上がった。
尿意に負けた。
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