第2話 夢の中の片思い
夢を見た。山田君の夢。目が覚めて夢の余韻に浸りながら洗面所に行って鏡を見た私は思わず小さく「うわっ」と声を漏らした。
夢の中の山田君はいまだに美しい高校生のままだった。そして私もセーラー服を着た高校生だったはずだ。それなのに何? 鏡に映るこのおばさん。起き抜けのボサボサなうえにパサパサの髪、ハリのない肌に自己主張したくてウズウズしているほうれい線。
私は慌てて顔に冷水をバシャバシャかけた。濡れたままの顔を恐る恐る鏡に映す。
だめだ。変わらない。こっちが現実なのか。
夢の中の私は若かった。高校生なんだから当然だ。そしてあのころと変わらず山田君を見ていた。そう、さりげなく、って当時は思っていたのか? 私は夢の中の自分にツッコミを入れる。
その見方は「見ていた」っていうんじゃなく、動くものに反応する猫科の動物だ。山田君が右に行けば右に首を向け、左に行けば左。もし山田君が羽を広げて飛んだらそのまま上を見たことだろう。
私は山田君を恐怖させていたに違いない。夢の中ですら、視線に気づかないはずはないのに頑としてこちらに視線を送ってはこなかった。
それでも、夢の中であっても山田君に会えたのは嬉しかった。相変わらず背中に薔薇の花束を描きたくなるような麗しさ。
目の保養になったわとほくそ笑んだ時、夫が洗面所のドアを開けた。中途半端に伸びた無精髭に少しずつ後退しつつある前髪。油っぽい肌。これが現実。
私は「おはよう」と挨拶するとそそくさとキッチンに向かった。コーヒーをセットして、レタスを洗い、トマトを小さめに切って、ウィンナーとたまごを焼く。火を弱火にして子どもたちを起こしに行った。
息子の陽斗はいつものようにまだ熟睡中。娘のひなはすでに目覚めてベッドの上のぬいぐるみに何やら話しかけていた。
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