第22話

 ギルドでの準備を終え、王都へ向かう馬車が出発した。

 子爵とギュンターは頑丈な手枷と足枷をつけられ、馬車の中に閉じ込められている。

 護衛として、俺とイリーナ、エリス、シェリル、そしてギルドから選抜された数名が同行することになった。


「こういう護送って、実は初めてだな。大きな仕事だ」


 馬車の外で警戒しながら歩く俺の隣に、エリスが並んで歩く。


「まあ、冒険者の仕事としては珍しいかもね。でも、貴族ってなると厄介ごとが多いし、万一逃がしたら大問題だもの」


「そうだな。だからこそ、慎重にやらないと」


 エリスが頷いた直後、前方を見張っていたギルドの男性戦士が声を上げた。


「待て、何か動いてるぞ! あれは……魔物……いや、人影か?」


 視線の先には、黒ずくめの集団が街道をふさいでいる。

 十数人ほどか。周囲の藪にも何かの気配がある。

 どうやら奇襲を狙っていたらしい。


「間違いない……子爵の手下か魔王軍の刺客か、その辺りだろうな」


 俺がそう呟くと、イリーナが前へ出る。


「ここは私に任せて。闇魔法で先制攻撃を仕掛けるわ」


「助かる! エリスとシェリルは左右からサポートしてくれ」


 俺たちが陣形を整えるや否や、黒ずくめの連中が一斉に剣を抜き、こちらへ突進してきた。


「来るぞ……!」


 イリーナが呪文を唱える。


「“ダーク・ボルト”!」


 彼女の手から闇の電流がほとばしり、先頭の敵を複数人まとめて感電させる。

 続けてエリスが大剣を振りかざし、襲いかかる刺客の武器を弾き飛ばした。


「はぁっ!」


 剣圧のすさまじさに、敵の隊列が一瞬で乱れる。

 エリスの豪腕はやはり頼もしい。

 一方、シェリルは杖を掲げて結界を展開する。


「“ホーリーフィールド”!」


 淡い光が味方を包み込み、外部からの攻撃を和らげる。

 これで俺たちは多少攻撃を受けてもダメージが軽減されるだろう。


「よし、押し返すぞ!」


 俺も簡単な防御術式を使えるよう訓練したので、最低限の魔法バリアを張りながら敵の出方を探る。

 黒ずくめの男たちは、どうやら人間であるらしい。

 その中には見覚えのある紋章を装備した者もいる。

 子爵の仲間なのか、あるいはさらに上流の貴族の手先か――どちらにせよ、ここで押さえ込むしかない。


「ギルドの皆、馬車を守れ! 子爵を逃がされちゃ元も子もないぞ!」


 俺が叫ぶと、戦士たちが馬車を円陣で囲み、防衛態勢を強化する。

 黒ずくめの刺客たちは必死に突破を図ろうとするが、エリスが一歩も譲らない。


「邪魔はさせない……ここで引き返しな!」


 エリスの大剣が唸り、その衝撃波で複数の敵を吹き飛ばす。

 イリーナも更なる呪文を唱え、足止めを続ける。


「“ダーク・ミスト”!」


 辺り一面に濃い闇の霧が発生し、敵の視界を遮る。

 その隙に俺たちは一気に攻勢に出る。


「そこだ!」


 剣を手に持った敵が闇の中でうろたえる瞬間を狙い、俺が急所を蹴り飛ばす。

 相手はたまらず地面に転がり、気を失う。

 この技は前世で護身用に習った格闘術だが、意外と役に立つものだ。


 やがて、次々に仲間を倒された刺客たちは士気を失い、散り散りに逃げ出す。

 完全な敗北を悟ったのだろう。


「逃げるなら追うな! 護送が最優先だ!」


 俺はギルドの戦士たちを制止し、馬車の周りへ集合させる。

 無用な追撃で逆に包囲されては元も子もない。


「よし、皆無事か? 子爵とギュンターは……大丈夫だな」


 馬車をのぞくと、子爵とギュンターはまだしっかり縛られている。

 ギュンターが悔しそうに睨んでくるが、俺たちは気にしない。


「ふん、こんなことしても無駄だ。お前たちの悪あがきは終わりだよ」


 俺たちが馬車を出発させようとした、そのとき。

 遠方の空に、黒い煙が立ち上がっているのが見えた。

 まるで街の一角が燃えているかのような光景だ。


「まさか、魔王軍がもうここまで……?」


 イリーナが不安そうに声を震わせる。

 しかし、まだ目的ははっきりしない。

 ともかく、ここで立ち止まるわけにはいかない。


「先を急ごう。王都まであと少しだ。急げば、子爵を無事に引き渡して俺たちも討伐隊に合流できる!」


 力強く言葉を放つと、仲間たちは再び隊列を整え、馬車を進ませる。

 この先、どんな試練が待ち受けているかはわからない。

 だが、一つずつ問題を解決していくしかないのだ。


 黒い煙が不気味に空を染める中、俺たちは王都へ向かってひたすら進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る