第21話

 翌日、ギルドは大騒ぎだった。

 俺たちがアルトハルト子爵とギュンターを拘束し、ギルドの地下牢に連れてきたとの報告が広まり、多くの冒険者が「よくやった!」と讃えてくれる一方、「あの子爵は王族にコネがあるんじゃないか?」と不安を洩らす者もいた。


「確かにコネはあるだろうが、相手が明確に法を犯したなら、ちゃんと裁けるはずさ。何しろ、今回は法務卿も後ろ盾になっているしね」


 俺は周囲の冒険者たちにそう伝える。

 すると、ギルド長が執務室から出てきて、大声で皆を集めた。


「静粛に! 今、法務卿から書状が届いた。子爵の取り調べはギルドが補佐し、最終的な裁きは王宮の法廷で行うとのことだ。よって子爵とギュンターを王宮へ護送する準備を開始する!」


 周囲がざわめく。

 子爵を王宮で裁く……それは、貴族社会にとっても衝撃的な出来事だ。

 ただ、俺たちとしては“魔王討伐隊の正常な運営”が第一。

 子爵の不正を放置しておくわけにはいかないのだから、当然の流れと言える。


「俺はこの護送に付き添います。下手に奪還される可能性もあるし、しっかり見届けたい」


「わかった。パトリシアやイリーナたちも同行してくれると助かる。子爵の取り調べに必要な証拠や書類もまとめてくれ」


 ギルド長がそう指示を飛ばし、周囲が一気に動き始める。

 王宮へ向けた道中、子爵の手下や魔王軍の潜伏工作員が襲ってくるかもしれない。

 だが、これを成功させなければ、魔王討伐隊は出発前から混乱の渦に巻き込まれるだろう。


 イリーナが俺の横に来て、そっと肘で合図をする。


「やっぱり、私たちも行くわ。最後まで見届けないと、契約書がまともに運用されるか不安だし」


「うん、頼むよ。俺だけじゃ心もとないからな。エリスとシェリルにも声をかけておいて」


 イリーナは軽く笑って頷く。

 正直、子爵と直接対決したばかりで体も休まっていないはずだが、文句ひとつ言わない。

 彼女の闇魔法が今回も重要な戦力になりそうだ。


 一方、パトリシアも書類を整理しながら忙しなく動いていた。


「これが子爵の隠し持っていた“改ざん契約書”の原本。それから、ギュンターが持っていた宝石の領収書……これらも王国憲法第20条“貴族の財産公開義務”に違反しているかもしれないわね」


「パトリシア、本当に助かる。日本の法律で言えば“脱税”や“政治資金規正法違反”みたいなものだ。こういう細かい証拠が後で大きな決め手になるから、しっかり保管しておこう」


「ええ、私に任せて。責任重大だけど、やりがいがあるわ」


 パトリシアはそう言うと、書類にしっかり封をして、ギルド長に提出する。

 子爵逮捕の一報は、すぐに王宮へも伝えられ、法務卿からも「できるだけ早く護送せよ」との返答が届いた。


 こうして、俺たちは子爵とギュンターを“護送車”代わりの馬車に乗せ、王都へ向かう準備を始める。

 討伐隊のほうもいよいよ作戦開始が迫っているらしく、兵士や冒険者が慌ただしく行き交う。

 もし護送が滞れば、魔王討伐までのタイムスケジュールが乱れかねない。


「行くぜ、みんな! 油断せずに護送を成功させて、魔王軍との戦いに集中できるようにしよう!」


 俺の掛け声に、イリーナ、エリス、シェリル、そしてパトリシアやギルドの仲間たちも大きくうなずく。

 大きな山場は超えたが、まだ終わりではない。

 貴族社会のしがらみと魔王軍の脅威……そのどちらとも戦わなければならないのだ。


 それでも、俺たちには“正義”を貫くための契約書と、仲間を信じる絆がある。

 さあ、次のステージへ踏み出そう。

 王国の運命を左右する旅路が、いよいよ始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る