第16話
大規模討伐隊の結成会議が終わり、ギルドの執務室で一息ついていた俺たちだったが、その日の夜、イリーナから「どうしても相談したいことがある」と言われ、宿の一室に集まることになった。
部屋にはイリーナ、エリス、シェリル、そして俺の四人。
テーブルを囲んで腰掛けると、イリーナは深刻そうな表情で口を開く。
「実は……王宮での会議のあと、あの貴族の代表がこっそり私に声をかけてきたの。あなたたちに内緒で会いたいって……」
イリーナの言葉に、エリスがすぐさま反応する。
「何だって? それ、絶対ロクな話じゃないわね。あからさまに怪しいじゃない」
イリーナは小さく頷いて続ける。
「しかも“お前には特別な役目があるはずだ。闇魔法の使い手は我が主君に協力すれば、さらなる力を得られる”とか言われたの。まるで、自分たちの陣営に取り込もうとしているみたいだったわ」
闇魔法使いは希少性が高く、強力な攻撃手段となる場合が多い。
それを利用しようというのは、不正を狙う貴族の常套手段かもしれない。
俺は腕を組みながら考え込む。
「イリーナを通じてパーティを引き抜くか、あるいは俺たちが作る契約書を歪めようとしているんじゃないか。どちらにせよ、まともな交渉とは思えないね」
「きっとそうよ。アイツらは何か仕掛けてくるに違いない」
エリスが強い口調で言うと、シェリルは少しおどおどした様子で問いかける。
「でも、放っておいたら、イリーナを狙ってくるかもしれませんし……どうしたらいいんでしょう? 逆にこちらから情報を引き出すチャンスにもなる気はするけど」
たしかに、何もせずに逃げ回るだけでは、相手の思惑を潰す手立てはない。
この状況なら、わざとイリーナが誘いに乗るふりをして、相手の裏の事情を探る手もあるだろう。
「俺たちも、相手がどこまで魔王軍と繋がってるのか確証が欲しいところだ。バレないように尾行するとか、ギルド長や法務卿に報告して仕掛ける準備をするとか……方法はいくつかある」
「私も賛成。危険だけど、今はむしろ攻めに出るべきよ。後手後手に回ってたら、向こうの好き勝手にされそうだし」
イリーナが不敵な笑みを浮かべると、エリスとシェリルも頷き合う。
ただし、あまり無茶はできない。魔王討伐に向けて、討伐隊の出撃準備は着実に進んでいる。
その中で、こちらが大騒ぎを起こせば、かえって周囲に混乱を招きかねない。
「まずは、俺からギルド長と法務卿に軽く相談しておくよ。あの貴族と接触する際は、イリーナ一人にはしないで、必ず俺たちが近くで見張る。いい?」
「ええ、私もそうするのが安心だと思う。正直、どんなことを言われるか怖いし……」
イリーナの表情に、ほんのわずかに不安の色が浮かぶ。
闇魔法使いゆえ、差別を受けてきた過去もある彼女が再び苦しめられるのは避けたい。
「大丈夫だ、誰もお前を危険な目には合わせないからな」
俺が力強く言葉をかけると、イリーナは安心したように笑みを返す。
こうして、“怪しい貴族たちの動き”を探るための対策を話し合った俺たち。
魔王軍との決戦が迫る中で、内部の闇とも戦わなくてはならないなんて、容易な道ではない。
「でも、やるしかないのよね。誰かが止めなきゃ、王国も魔王討伐隊も台無しにされるわ」
エリスの一言で会話は締めくくられ、俺たちは夜が更けるまで対策を立て続けるのだった。
闇を晴らすためには、まず光を当てることが必要だ。
前世の弁護士時代と同じように、腐敗を暴くためならいくらでも戦う覚悟はある。
そんな熱い思いを胸に、俺は深く息を吐いて宿を後にした。
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