第15話
王宮から戻った俺たちは、早速ギルドへと戻り、大規模討伐隊結成の最終会議に参加する。
広い会議室には、王国軍の司令官らしき騎士や、各地方を代表する冒険者のリーダーなどが集まっていた。
彼らはそれぞれの意見をぶつけ合いながら、作戦の大枠を固めていく。
「北のグラネル砦近辺には大量の魔王軍兵が展開している。正面衝突を避けるには、まず別働隊を編成して敵の背後を突く必要があるだろう」
「補給線を確保するために、東の街道はしっかり守らねばならない。そこには冒険者部隊を配置すべきだ」
こんな感じで、軍事的な話が次々と進んでいく。
だが、ここで俺の役目は軍略を立てることではなく、“契約”を取りまとめること。
どのパーティがどの地域の前線に配置されるのか、報酬はどのように支払われるのか、万が一負傷した場合の補償はどうするのか……こうした情報を整理して“討伐隊契約書”に落とし込むのだ。
会議の後半、王国軍の将校から「討伐隊契約書のドラフトを提示してくれ」と促され、俺は分厚い書類を机に置いた。
「こちらが試案です。王国憲法第14条およびギルド運営法に基づき、冒険者と王国軍との共同行動を法的に整理しました。日本の自衛隊法や傭兵契約のイメージを参考にして、可能な限り明確な条項を設けています」
将校たちは目を通しながら感心した様子だ。
「ほう……報酬は段階的に支払われるようになっており、前金・中間金・成功報酬がそれぞれ設定されているのか。兵の士気を保つには良いシステムだな」
「補給物資の支給や、もし死亡した場合の見舞金の額まで詳しく書かれている……これはかなり親切だ」
そこへ、貴族の代表らしき男が顔をしかめて口を挟む。
「しかし、こんなにも細かく決める必要があるのか? 我々貴族の裁量が奪われてしまうではないか。もともと、戦場での対応は臨機応変にやるものだろう?」
嫌味ったらしく言い放つ彼に、俺は笑顔を崩さず応じる。
「もちろん、現場で判断が必要なケースも考慮しています。ですが、その範囲を曖昧にしてしまうと責任の所在が不明確になり、不正が横行する恐れがあります。討伐隊が大混乱に陥るのは避けたいので、あえて細かいルールを設けたんです」
「ぐぬぬ……」
男は不満げな様子で黙り込む。
俺の言うことは理にかなっているし、会議の場には王国軍の将校もいる。
下手に反論すれば周りから白い目で見られるだろう。
そんな空気の中、ギルド長が手を叩いて場を取り仕切る。
「よし、だいたい方向性は固まったな! 契約書に異存がある者は、今のうちに言っておけ。なければ、正式に採択して討伐隊の出撃準備を開始する!」
しばらく沈黙が続くが、特に反対意見は出なかった。
こうして、俺が作り上げた“討伐隊契約書”は全会一致で採択されることとなる。
しかし、その場の空気には、何か重々しいものが混ざっていた。
まるで嵐の前の静けさ……。
会議が終わり、イリーナたちと合流すると、エリスが腕を組んで険しい顔をする。
「ねえ、あの貴族代表、どうにも怪しい匂いがするわよ。目が泳いでたし、まるで企んでるような」
「多分、何か仕掛けてくると思う。討伐隊の出撃前後が危ないかもね」
イリーナの言葉に、シェリルも不安そうに口を開く。
「でも……今は私たちにできる準備をしっかりしておくしかありませんよね。みんなを守るためにも」
そうだ。
戦いだけがすべてじゃない。俺には法の力がある。
もし何か不正行為が起きたら、徹底的に暴き、裁いてやるまでだ。
「よし、まずは討伐隊の編成に合わせて俺たちも動こう。絶対に負けないぜ……!」
拳を握りしめる俺の胸に、熱い闘志が湧き上がる。
大勢の冒険者と共に挑む魔王討伐が、いよいよ幕を開けようとしていた。
果たして、この物語の行きつく先はどこなのか。
しかし、俺は迷わない。
正義の契約書を携えて、どんな陰謀にも立ち向かってみせる。
そう心に誓いながら、俺はイリーナたちとともに、迫りくる戦いの準備を始めるのだった。
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