第14話
法務卿に案内された先は、小さな応接間だった。
石造りの壁に大きなタペストリーが掛けられ、テーブルには香りのいいハーブティーが用意されている。
法務卿はソファに腰掛けると、優雅な所作でティーカップを持ち上げた。
「ここなら人目も耳も少ない。ゆっくり話せるだろう。……さて、率直に言おう。先日、ある貴族から“転生弁護士の契約書を破棄しろ”という要求があった。もちろん、私はそれを突っぱねたがね」
やはり……。
俺は心の中でギュンターの姿を思い浮かべながら歯を食いしばった。
イリーナやエリスも険しい表情を浮かべている。
「彼らは王家に取り入ろうとしているが、実際は魔王軍とも通じている可能性がある。私も薄々勘づいていたが、決定的な証拠がなかった。ところが、そなたの契約書がそれを炙り出すかもしれないと思ってな」
法務卿はティーカップを置き、まっすぐこちらを見つめる。
「もし、貴族連中が“報酬の不正”や“軍資金の横流し”などをやっているとしたら、契約書に虚偽の記載をしようとしたり、隠蔽工作を図るはずだ。そなたはそれを拒むだろう。すなわち、彼らの不審な動きが契約書作成の過程で浮き彫りになるはず……私はその瞬間を逃したくないのだよ」
この白髪の法務卿、どうやら俺に期待しているようだ。
彼もまた“王国憲法”を信じる一人なのかもしれない。
だが、彼が本当に信用できるかどうかは、まだわからない。
「なるほど……。もし、そういった不正を確認したらどうするんですか?」
「証拠を揃えて、王宮の法廷で裁く。王国憲法第5条“反逆および王家に対する背信は極刑に処す”が根拠となるだろう。日本でいうところの……国家転覆罪か何かにあたるのかね?」
「まあ、それに近いです。日本では“内乱罪”や“外患罪”が該当すると思います」
法務卿は小さく笑みを浮かべた。
「ふむ、やはり弁護士というのは頼りになる。正直、この国でも“弁護士”という職はあるにはあるが、冒険者の契約書まで作れるほど専門に特化した者はいない。そなたの力を存分に見せてもらおう」
その言葉に、俺は静かに目を閉じる。
どうやら俺は、この国の闇を暴くキーパーソンになりつつあるようだ。
もし、貴族らが不正を働いているなら、法の裁きにかけるのが俺の役目。
「わかりました。ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」
そう言って頭を下げると、法務卿は満足そうに頷いた。
「では、私は引き続き王都で情報を集める。討伐隊の契約書が完成したら、ぜひ私に見せてくれ。表向きは“法務卿としてチェックする”という形にしておこう」
応接間を出る前、法務卿は俺の肩にそっと手を置いて小声で言った。
「貴族連中の横槍があっても、どうか正義を貫いてくれ。私も全力で支えるから……頼んだぞ」
その瞳は真摯だった。
俺は法務卿の真意を信じようと決め、彼の言葉に頷く。
こうして、俺たちは王宮を後にするのだった。
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