第13話

 討伐隊の準備が着々と進む中、俺のもとに一通の召喚状が届いた。

 差出人は“王宮”。

 要件を見れば、王宮の法律顧問として働いている“法務卿”が俺を呼び出しているらしい。


「法務卿……名前だけは聞いたことある。王国憲法の改定や、法の運用を監督する役職とか」


 ギルド長によれば、法務卿は法を司る最高位の役職であり、貴族の中でも一際強い権限を持っているという。

 討伐隊の契約書に関しても“直接確認したい”とのことだった。

 ただ、どうしてわざわざ俺を王宮に呼び寄せるのかは不明だ。


「嫌な予感がするな……。ギュンターの主君が法務卿に影響力を持ってるとか、そんなオチじゃないだろうな」


 いずれにせよ、王宮に呼ばれたからには行かないわけにはいかない。

 俺は意を決して、イリーナやエリス、シェリルにも相談することにした。


「ちょっと俺、王宮に呼ばれたんだ。もし何かあったら困るから、みんなにも同行してほしい」


 そう頼むと、エリスは腕を組んで即答する。


「当然でしょ。あんた一人じゃ危険だもの」


「うん、闇魔法で要人を攻撃するわけにはいかないけど、身を守るぐらいはできるわよ」


 イリーナが笑みを浮かべながら付け足すと、シェリルもコクリと頷いた。


「もしものときは、私が回復魔法でサポートします」


 こうして、俺たちは王宮へ向かう。

 大理石の階段を登り、厳かな雰囲気の廊下を進むと、法務卿の執務室へと通された。


「よく来てくれたね、転生弁護士さん」


 優雅な物腰で迎え入れたのは、白髪の紳士だった。

 長いマントに法服のようなものをまとい、年の頃は六十代といったところか。

 いかにも威厳のある姿だが、その目には探るような光が宿っている。


「討伐隊用の契約書、なかなかに精緻な仕上がりらしいね。これまでの冒険者契約書も拝見したが、非常に興味深い。日本という国には独自の法律があるんだろう?」


 法務卿はそう言って、細めた目で俺を見つめる。

 あえて曖昧に微笑み返しながら、俺はうなずく。


「はい。日本でも契約書はビジネスの基本です。契約自由の原則に基づいて当事者の意思を尊重し、義務や権利を明確にするんです。王国憲法も同様の理念を持っていると感じましたよ」


「ほう……興味深い。さて、ひとつ確認したいのだが、もしこれらの契約書が“王家や貴族の利益”にそぐわない場合、どのように対処するつもりかな?」


 その言葉に、俺は少しだけ眉をひそめた。

 やはり、貴族の意向を優先しろという圧力がかかるのだろうか。


「俺の立場はあくまで“公正な”契約の作成にあります。誰か一部の利益だけを保護するものではありません。法務卿の立場からすれば、それこそが王国憲法の精神では?」


 法務卿は意味ありげに微笑んだ。


「……実に興味深い。そなたの意見をもう少し詳しく聞かせてほしい。この部屋ではなく、別の場所でゆっくりとな」


 そう言って、奥の部屋を示す法務卿。

 俺たちはわずかな警戒心を抱えながらも、その提案を受け入れる。

 果たして、この面会は単なる公式の確認なのか、それとも……。

 胸騒ぎを抑えきれないまま、俺たちは法務卿の後を追うのだった。


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