第12話

 それから数日後。

 ギルドに王都からの正式な通達が届き、いよいよ“魔王討伐隊”の編成が本格的に始まった。

 なんでも、魔王軍が王国の北側に位置するグラネル砦を攻め落とし、現在は王都への侵攻ルートを確保しようとしているらしい。


「ついに本格的に動き出したか……」


 ギルド長の執務室で、俺は届いた通達書面を読みながらつぶやいた。

 すでに冒険者たちが続々と集まり、討伐隊への参加を表明している。

 もちろん、そこにはイリーナたちも含まれていた。


「どうやら討伐隊には、王国軍の主力部隊も参加するようだ。大量の騎士や魔法使いが投入されるとか……どうだ、うまくまとめられそうか?」


 ギルド長が心配そうに尋ねる。

 確かに規模が大きい分、要求される契約条件も複雑になるだろう。

 でも、だからこそ俺の知識が活きる場面でもある。


「大丈夫ですよ。大枠はすでに作ってあるし、後は参加者の職業やスキルに合わせて細分化すれば対応できます。最終的には“王国憲法第14条”で定めるギルドの統率補佐義務に基づき、全体を統括する連絡網を作れば……」


「頼もしすぎるぜ。ははっ、まさかこんな形で法律が役に立つとはな」


 ギルド長は安心したように笑う。

 一方で、俺の頭にはあの執事ギュンターの顔がちらついていた。

 魔王軍と内通している貴族がいるとしたら、彼らはこの討伐隊を内部から攪乱しようとする可能性が高い。


「今のうちから、貴族連中の動向には注意しないとな。王国軍の指揮系統は基本的に貴族を中心に回るだろうし……」


 パトリシアから打ち明けられた話を思い返すと、自然と警戒心が高まる。

 しかし、今は目の前の仕事に集中しよう。

 俺が完璧な契約書を仕上げれば、どんな不正も見抜ける仕組みを作れるはずだ。


「よーし、やるか……。みんなを守るために!」


 自分の机に戻り、大量の資料を広げる。

 王国軍にはどんな隊列が組まれ、冒険者の役割分担はどうなるのか。

 兵站、補給、作戦行動中の報酬、もし負傷者が出たときの保障……すべてを想定して条文に落とし込んでいく。

 前世の渉外弁護士時代の経験を総動員して、大規模契約書作りに没頭するのだった。

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