第10話

 多くの契約書を一気に作成した俺には、ギルドからたんまりと報酬が支払われた。

 紙やペン、インクなどの材料費は高額だが、ギルドが一部負担してくれたおかげで、利益もそこそこ手に入る。

 そんな状況に大喜びしていると、イリーナたち三人が俺を呼び止めた。


「ねえ、ちょっとお祝いしない? あなたのおかげで私たちも快適にクエストができるし、大規模討伐にも備えられる。ついでに言えば、私たちにも追加報酬が入ったのよ」


 イリーナが艶っぽい声で誘ってくる。

 よく見ると、エリスもシェリルも、どこか色めいた表情で俺を見つめていた。


「そ、そうか。ま、まぁ、打ち上げってやつか? いいんじゃないかな」


 場所はギルド近くの宿屋の大部屋。

 いつもは冒険者たちがドンチャン騒ぎをする場所だが、今夜は予約を入れてあるらしく、俺と三人だけでゆっくり食事を楽しめるという。

 そこでは酒や料理が振る舞われ、エリスはジョッキを掲げて豪快に笑う。


「ほら、遠慮しないで飲めって。あんた、結構働きづめだったんだろ? 今日はあたしたちが盛大に労ってやる!」


 イリーナもグラスを揺らしながら微笑を浮かべる。


「闇魔法使いは酒に弱そうって? 大丈夫よ。今夜はあなたと一緒に楽しみたいから」


 シェリルも頬を赤らめ、少し照れたように口を開く。


「私、司祭見習いだから本当はお酒は控えめにって言われてるんです。でも、今日は特別……あなたと一緒に飲みたいから」


 どうやら三人とも、俺に対してかなり好意を持ってくれているようだ。

 異世界に来たばかりの頃は、こんな状況を想像できなかった。

 それが今では、美女たちに囲まれて打ち上げだ。


「……これは夢じゃねえよな?」


 そんな思いが頭をよぎるが、アルコールの勢いもあって、どんどんテンションが上がっていく。

 やがて深夜。

 酒もまわってきた頃に、イリーナが俺の手をぐいっと引く。


「ねえ、もっと二人きりで話をしたいんだけど……今夜は、いいかしら?」


 妖艶な視線を向けるイリーナ。

 その胸元がちらつくローブの隙間から見え隠れする肌に、思わずドキリとする。

 そして、エリスとシェリルも隣で艶やかな表情を浮かべている。


「……え、えっと、そ、その……」


 俺が戸惑っていると、三人が意味ありげに微笑んで俺にすり寄ってきた。

 温かい吐息が耳元をくすぐり、甘い香りが鼻孔を刺激する。


 ――そして、俺はそのまま三人に連れられて、部屋の奥へ。

 軽く照明を落とした空間で、しっとりとした夜が更けていった。


 熱っぽい視線と、柔らかな体温。

 甘い囁きが耳をくすぐり、俺はどうしようもなくその魅力に惹き込まれていく。

 ただ、夜が明けた頃、ベッドの上で俺の意識は甘美な闇に包まれ……。


 ……それがどういう結果を迎えたかは、語らずとも想像に難くない。

 気づけば朝日が差し込んでくるころ、俺は三人の美女に囲まれて、ほんの少しだけ後ろめたい幸せを噛みしめていた。

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