第7話
ギルドに戻り、大規模討伐隊向けの“統一契約書”をまとめる作業を進めていた俺だが、そこに思わぬ“客”が訪れた。
ドアを乱暴に開けて現れたのは、派手な刺繍の入った上着を着た男。
金髪を後ろで結い、どことなく上から目線の気配が漂っている。
「貴様か、ギルドの契約書とやらを作っているという、異世界からきた弁護士は?」
その態度に、思わず眉をひそめる。
「そうだが……何か用ですか?」
「用があるから来たんだ。私の名はアルトハルト子爵家の執事、ギュンターと申す。近日行われる魔王討伐隊の契約書、我が主君に有利な形に改訂しろ。いいな?」
一方的にそう命令してきた執事のギュンター。
あからさまに自分たちだけ得するような契約にしろというのは、法に反する不正行為だ。
俺は毅然とした態度を崩さず、首を横に振った。
「それはお断りします。みんなが納得できるルールを作るのが俺の仕事ですから」
「ほう……? 私の主君は王室にも顔がきく。それを敵に回してもいいのかな?」
脅し文句を吐き捨てるギュンター。
だけど、そんなのに屈していては弁護士の名が廃る。
「俺は法に則って仕事をするだけだ。もしあなたの主君が無茶を言うなら、それこそ逆に法の裁きを受けることになりますよ」
ギュンターは鼻で笑い、つかつかと俺に詰め寄る。
「言ったな……? そちらがその気なら、こちらもそれなりの手段を取らせてもらう。覚えておけ!」
そう言い残して、彼は乱暴にドアを閉め、去っていった。
胸に湧くのは不安ではなく、怒りと闘志だ。
パトリシアの話に出ていた“魔王軍と内通する貴族”というのは、もしかしたらこいつの主君かもしれない。
「やってやろうじゃねえか……。俺は正しいことをやるために、ここにいるんだからな」
俺は気持ちを奮い立たせながら、再びペンを握る。
不当に権力を振りかざす連中は、必ず法に触れる穴を抱えているものだ。
それが前世で学んだ“法律の力”の真髄だと、俺は知っている。
やがてパトリシアが書類を抱えて部屋に入ってきて、「今の人とすれ違ったけど……もしかして、あの貴族の執事?」と声を潜める。
「そうみたいだな。だが、絶対に屈しない。俺が目指すのは、冒険者が安心してクエストに集中できる世界だ。貴族の都合だけで曲げるような契約書なんか、絶対に作らないさ」
俺の言葉に、パトリシアはどこか誇らしげに微笑んだ。
ギュンターの横槍は、今後も続くだろう。
だが、こんなところで引き下がるわけにはいかない。
前世の弁護士時代以上に、俺は熱く燃えていた。
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