第5話
翌朝、契約書の清書に取りかかろうとした矢先、ギルドの使いが俺を呼びに来た。
どうやらギルド長が「今すぐ来てほしい」と言っているらしい。
「なんだなんだ、いきなり呼び出されるなんて、もしかしてトラブルでもあったのか?」
そんな不安を抱えつつ、パトリシアに案内されてギルド長の執務室へ向かう。
そこには、威厳に満ちた立派なヒゲを蓄えたギルド長が座っていた。
しかし、どうも様子がおかしい。眉間に深い皺を寄せ、難しい顔をしている。
「ご苦労だったな、転生弁護士さんよ。早速で悪いが、ちょっと大きな案件をお願いしたい。実は近頃、“魔王軍”の動きが活発化していてな。近々、王都から討伐依頼が正式に出されるらしいんだ」
「魔王軍……かなり物騒な話ですね」
この世界には“魔王”と呼ばれる存在がいて、定期的に各地を荒らしまわるらしい。
ギルドとしては、国を挙げての討伐作戦に協力するのが通例だが、今回の規模はかなりでかいとのこと。
「何百という冒険者が参加するらしい。だが、この大部隊をまとめるにあたって、我々は“契約面”で手を焼きそうなんだよ。みんなそれぞれ報酬や役割を主張して譲らないだろうしな」
ギルド長は苦々しそうに唸る。
それなら俺の出番かもしれない。
「つまり、集団行動のための大枠となる“討伐隊契約書”を作ってほしい、ということですか?」
「そうだ。王国憲法第14条には、大規模な軍事行動の際、“ギルドは統率権を補佐する義務を負う”とある。これは日本で言えば、自衛隊や警察が民間の協力を仰ぐような状況に近いのかもしれんが……こっちじゃ、まともに統率する仕組みが弱くてな」
なるほど、この国には一応、軍隊というものもあるが、人手不足で冒険者の力を頼らざるを得ないらしい。
その結果、功績を取り合ったり損失を押し付け合ったりで、大きな混乱が起きることも多いそうだ。
「わかりました。お任せください。大規模契約だろうが、ちゃんと条文を作ってしまえば、それに沿って動くようにできますから」
俺が胸を張って答えると、ギルド長は目を輝かせた。
「おお、頼もしいな! しかし、こりゃかなりの仕事量になる。報酬はしっかり出すから、どうかよろしく頼む!」
そうして、思わぬ形で“魔王討伐”という世界規模のイベントに俺は関わることになった。
まだ魔王の姿すら見ていないが、このままいけば俺は法律の力で戦場の最前線に立つことになるかもしれない。
「よし、やるからには徹底的にやってやるぜ……!」
俺は思わず拳を握りしめた。
転生早々、こんなビッグプロジェクトに関われるなんて、まったく夢のようだ。
それが吉と出るか、凶と出るかはわからない。
だが、確かなことは、俺の“契約書”が世界の運命を大きく左右していくことになりそうだ、ということだった。
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