第4話
その日の夕方。
ギルドの一室に集まったイリーナたち三人は、やはり目を引く美女ぞろいだった。
イリーナは闇魔法使い、剣士のエリスは銀髪で精悍な顔立ち。
神官のシェリルは金髪で穏やかな雰囲気だが、その胸元は意外にも豊満で……いや、変に見とれてはいけない。
俺はテーブルに契約書の下書きを広げ、まずは大事なところを読み上げていく。
「まず、この“クエスト同行契約書”は、ギルドが運営するクエストを共同で遂行する冒険者同士の権利義務を明確にすることを目的とします。続いて、パーティのリーダーはエリスさん、でいいのかな?」
「ええ、私がパーティの中で一番腕っぷしには自信があるわ。モンスターと真っ向勝負するときは、私が前に立つもの」
「オーケー。そしたら、エリスさんがリーダーとして責任を負う場合の範囲を決めましょう。もちろん、予測不能な事故の場合は、リーダー個人じゃなくてパーティ全体で対応する形にしたほうがいいけど……」
俺の説明に、三人は真剣な表情で耳を傾ける。
こういう姿勢を見せてくれるだけでも、契約書を作る甲斐があるってものだ。
「そのほか、報酬の分配はどうします? クエスト報酬をパーティ全員で等分するか、もしくは貢献度によって変えるかとか」
するとイリーナが即座に口を挟む。
「等分ってのは昔やってたけど、私の魔法が大型モンスターを一気に片づける場合の負担は大きいでしょ? だから、ある程度の差は欲しいわね」
「そうか。じゃあ、基本は等分としつつ、討伐に大きく貢献した人にはボーナスを与える、みたいな条項を入れておこう」
イリーナは満足げに頷く。
一方、シェリルは控えめに口を開く。
「責任については“王国憲法第10条”と“ギルド運営法”に則って、危険行為に自ら踏み込んだ場合は自己責任……でいいのでしょうか?」
神官だけあって、法令にも詳しいらしい。
彼女が言及した“王国憲法第10条”は、先ほどギルドのおじさんから聞かされた“魔物討伐の権限”の根拠条文だ。
日本でいえば“刑法”の正当行為を規定する条文に近い位置づけになる。
「それで問題ないと思います。ただし、リーダーの指示とは別に、勝手な行動で怪我をした場合は自己責任が強くなる、といった形で条項を追加しましょう」
そう提案すると、エリスとイリーナも「それがいい」「絶対必要ね」と即決。
こんなふうに話し合いながら契約書を作るのは、俺としてもやりがいがある。
そして、三人と俺のやり取りはスムーズに進み、ついに契約書の骨子が固まった。
「すごい……こんなに丁寧に権利や報酬が明記されていれば、そりゃ揉め事も減るわよね」
エリスが感嘆の声を漏らすと、イリーナも目を細めて同意する。
「まさか、異世界からきた弁護士がこれほど優秀だとは……。さすがね、気に入ったわよ」
最後にシェリルが微笑みながら締めくくった。
「本当に助かります。これで私たち、安心してクエストに挑めそうです」
彼女たちの笑顔が、俺のモチベーションを高めてくれる。
こうして、最初の契約書打ち合わせは大成功。
だが、まだ下書きの段階だ。仕上げに向けて、さらに詳細な条項を詰めていくことになるだろう。
俺は新しい人生に燃えながら、ペンを走らせる。
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