第3話

 ギルドから仕事部屋として与えられた小さな一室。

 テーブルには紙とペン、それから参考資料として借りた“王国憲法”の抄本が広げられている。

 それを眺めながら黙々と条文をチェックしていた俺は、どうにか基本的な契約書の下書きを完成させようとしていた。

 そんなとき、部屋のドアがノックされる。


「失礼するわ。あなたが噂の“異世界の弁護士”ね?」


 入ってきたのは、漆黒のローブをまとった魔法使い風の女性。

 深い青色の髪が腰まで伸び、その瞳は冷たくも色気を含んでいる。

 胸元はローブの合わせ目が大きく開いており、ぎりぎり際どい肌がちらついているのが非常に目の毒だ。


「う……え、えっと、俺に何か用ですか?」


 思わず目のやり場に困ってしまうが、相手はそんな俺の様子を見てか、口元をわずかにほころばせた。


「私はイリーナ。闇魔法を専門とする冒険者よ。あなたが“契約書”なるものを作ってくれるそうだから、ぜひ私たちのパーティにも導入したいと思ってね」


 彼女の話によると、前に組んでいたパーティで報酬を巡るトラブルが絶えず、つい最近もメンバーと険悪になって解散寸前になったらしい。


「それはお気の毒に……。でも、ちゃんと契約書を作れば円満に解決できると思う。今回はどんな構成のパーティなんですか?」


 その問いに、イリーナは顎に手を当て、うっとりした様子で答える。


「私以外に、剣士のエリスと、神官のシェリルがいるわ。どちらも高レベルな実力者よ」


「お、おお……。つまり、全員女性……?」


「ふふっ、どうかしら? 女性ばかりの華やかなパーティ、鼻の下伸ばしてるんじゃない?」


 イリーナが妖艶な目つきで微笑むと、俺は思わずたじろいだ。

 まさか俺の最初のクライアントが、いきなり美女だらけのパーティとは。

 だが、仕事は仕事。俺は気を引き締めて返事をする。


「もちろん、全力でサポートさせてもらうよ。実際、契約書があればトラブルは大幅に減るはずだ」


「ありがとう。さっそくだけど、今日の夕方にパーティ全員が揃うから、そのとき詳しく話を聞いてもらえる?」


「わかった。楽しみにしてるよ」


 そう伝えると、イリーナは満足げに部屋を出て行った。

 思わず俺は大きく息を吐く。


「……うーん、なんだかすごいことになってきたぞ。美女だらけのパーティを支援するなんて、ちょっと憧れだったけど、実際はそう甘くもなさそうだな」


 そう呟いて苦笑いを浮かべる俺。

 しかし、前世で叩き込まれた“法律の知識”は、ここでも十分に武器になるはず。

 こうして俺は、新たな出会いと共に、さらなる仕事へと踏み出していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る