🔮📕ゆかり@紫式部の潜入日記・島津編・中編
山小屋ですっかり満腹になり、やれやれ取りあえずここを拠点にするか……。
そんなことを思ったゆかりが小屋の外に出て、地面に散らばった文房具セット(硯や墨、筆の入った小箱)とバールのような物を拾い、枕が変わると眠れないから……あれ確かにこのあたりに……などと、きょろきょろしていると、とんでもない絶叫が耳に飛び込んできた。
「チェスト――!」
『!!!!』
いきなりな展開、そして絶叫とともに刀を全力で振り下ろされていたが、そこは八歳にして兄のふりをして、鬼の代筆屋家業と無許可の突撃取材を行い、カチコミにあった貴族のやかたで床下に転がってきた出来立ての生首を目の前にしても、「いまからいいところだったのに……究極の偏愛が残念な結果……ちぇっ……」なんて思いながら床下から消えていたり、帝が何回も「いい加減に京の道でいがみ合い(家来の殺〇を含む)は止めなさい! 絶対に禁止!」なんて何回も勅令を出していても、「ここであったが百年目! 逃がすかこのク〇兄貴!(実兄)」などという、とんでも兄弟げんかに巻き込まれ、家来や家来の馬の首が暗闇でドサリと落ちるような大混乱の中を、「すささささ……ひらりっ!」なんて避けてきた女。
ゆかりは、文房具セットを投げ捨てながら、一瞬でクルリと体を回転させ、紙一枚、そんなほんのわずかの距離で刀の軌道から逸れると、体を地面すれすれにのけぞらせたままバールのような物を、絶叫男のふくらはぎあたりを狙って思いっきり叩きつけてから男がよろけた隙を狙って、今度は視界に入った石の枕を両手に持つと、何度も顔面に叩きつけていた。
「なにこの変人……?」
三日の貫徹で目の下は真っ黒、いまは邪魔だからと身の丈もある髪を、小屋の近くに生えていた蔦で、いつかくる遠い未来で一瞬の輝きを放った髪型、『ヴェルサイユ昇天盛り@出来損ない風味』そんな風に天高く巻き上げ、いつもの珍妙な十二単は脱いで、最低限の
「まったく、なにもかもあの変なじじいのせいだ……」
ゆかりは、地獄の極卒が吐いたため息。そんな黒く重いため息をついてから、左手を首のうしろにやって目をつむり、どうしたものかと思いながら、油断なく右手のバールのような物は持ったまま、気絶した大けがの
「あ、紙を持ってる……少しはツキが残っていたな……とにかく思いついている物語を書いておこう……」
ゆかりは立ち上がるとそんなことを、じめついた口調でぼそりと口にして、再び大けがの侍に、いらだたしげな視線をやる。
気絶しているはずなのに、右の足首を掴んで離れないのである。
「めんどくさいな……」
日頃、二十キロはある十二単を着て、内裏をうろつき回っている体幹が強いゆかりは、もういいやと男を引きずったまま文房具セットを小脇に抱え、また小屋へと戻った。
そして、紙の裏面に極力節約……なんて思い、限界まで小さい字でメモをとっていると、あっという間に日は暮れて、「はあ、みじめ……まだ足から変なのが離れないし……石の枕で力の限界まで叩けばとれるかな?」なんてゆかりは悩んでいると、男はようやくうっすらと目を開けていた。
「え?
「なんだよそれ? 知らないよ。山姥とな?……摂関家の女房に失礼な……」
「え……摂関家?」
***
その頃、初陣の
実際のところ
「本当に山姥にやられたと思う?」
「そんな訳あるかっ!」
「う――ん、どっちでもいいケド、
のん気に聞こえる会話であったが、とにかく可及的速やかに解決をと有能な武将でもある父、現在の島津家当主、
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