第4話:盗聴器の仕掛け方

巧は自分が盗聴器を仕掛けに行った時のことを説明し始めた。


「俺は作業着を着てリフォームの営業として訪問しました。無料点検に加えて、1か所までは無料で修理することを言うと家にあげてもらえました。床下と壁の中が白アリに食べられてないか調べてみますって言って、コンセントの中に盗聴器仕掛けてきました」

「あの家の人間ならタダとかに弱そう……」


海野乙姫が頭を抱えている。あり得そうと思ったのだろう。


「次は、三千華さん」

「はいはいはーい!」


今度は三千華が代わりに立ち上がり、敬礼しながら嬉しそうに答えた。


「私はね、肌をプルンプルンにしてあの家の近くを通りかかって、洗濯物を干していたお兄さんに声をかけました。高級な化粧品を奥様にプレゼントしたいって言って無料サンプルの箱をチラつかつつ、胸元が開いた服で言ったらお兄さんは胸ばかり見てましたし、すぐに家に入れてもらえました」

「あの兄……」


海野乙姫は目を覆ってその時のことを想像していたようだ。よほどリアルに想像できたのだろう。


「まあ、そんなこんなでどちらも簡単に入れましたよ?」


そう言いながら、何でもないことの様に巧は説明した。そして、スマホほどの大きさのボイスレコーダーと思われるものをテーブルの上に置いた。


『乙姫の猫はどうした?』


そこからは海野家の父親の声がしていた。他でもない18年間あの家で暮らしていた依頼者にはそれが一発で分かったのだ。


『乙姫さんがとても可愛がっていたってことだったので丁重に葬ってあげました』


今度は少し若い女性の声だった。これが兄嫁の声だとすぐに乙姫には分かった。なにが「丁重」にだ、と頭の血が沸き立つように沸騰するのが彼女自身感じられた。兄嫁が猫を殺した証拠はないものの、苦悶の表情で死んでいる猫の画像を撮影してわざわざ送ってくるあたり悪質だと感じたのだ。


長年猫を飼っていた乙姫には分かるのだ。猫は死ぬ間際飼い主やその他の人にその亡骸が見られないように人目につかない場所に移動する。あの家の場合は軒下とか、いっそのこと敷地外の普段絶対に行くことのない公園の茂みの中などだ。


ところが、送られてきた猫の画像は苦しい顔をした上に畳の上に横たえられていた。彼女が物心ついた時には家にいた猫で、既に20歳位になっていた。これは人間で言えば100歳くらいの老猫だ。一日のほとんどを横になって過ごしていただろう。それを踏みつけて殺したことすら考えられた。


乙姫はあの人ならそれくらいのことはする。そう感じていた。


ただ、ここではそれは問題ではなかった。ちゃんと父親と兄嫁の声が聞こえたのだ。あの居間のどこかに本当にこの人たちは盗聴器を仕掛けてきたのだと心強く感じたのだった。


「これからどうするんですか?」

「実は準備が全て終わったのでお呼びしました。俺たちしかできない方法で思う存分仕返しさせてあげます」

「巧さんたちしかできない方法……?」


全てが彼女の想像の斜め上だったので、海野乙姫にはこれから何が起こるのか想像すらできないでいた。


ちょうどこのタイミングで海野乙姫のスマホに彼女の兄からメッセージが届いた。


「メッセージ? 兄から……?」

「ジャストタイミング! 開いてみてください」


巧は指をパチンと鳴らして海野乙姫のスマホを指さした。彼女はスマホのメッセージに視線を移した。


『久しぶりだな。実は衛が血液の病気なんだ。ドナーが必要で適合者を探してる。適合率は血縁者で1/4なんだ。俺も霞もダメだった。父さんと母さんも適合しなかった。家族以外だと数万人に1人の確率らしい。念のため、お前も検査を受けてもらえないか。病院はこちらから手配しておく』


『衛』とは兄夫婦の子どもの名前だ。


「これは……?」

「来ましたか。チャンス到来ですね!」

「これ……どういうことなんですか……?」


海野乙姫は困惑していた。まずは兄からのメッセージが数年ぶりだ。いや、彼女は実家で一緒に住んでいた頃もメッセージなんて送られてきたことがないことを思い出した。既におかしなことが起き始めていた。


「あの……これってどうすれば……?」

「受けましょう! 検査を受けましょう。そしたら、乙姫さんの下準備も全て終わりです」


涼しい顔で巧が言った。

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