第3話:今仕返しをしたい理由
「じゃあ、なんで今のタイミングなんですか? その時からもう何年も経ってるのに……。やり返すならすぐっていうか……」
「つい先日、兄嫁がこたつ……私の猫を殺したんです」
「は……!?」
こたつとは、彼女の飼っていた猫の名前らしい。それにしても、そこまでするかって気持ちだった。
「兄嫁は猫とかペットを嫌ってたから、なにかのタイミングで殺したみたいで死んだこたつの画像を送ってきたんです」
「死んだ猫の画像!? かなり非常識ですね」
依頼人の顔を見たら、あいつならやるって表情だった。
「だから、あいつの弱みを見つけて徹底的に仕返ししてやりたいんです!」
「なるほど……。もしかしたら、うちに依頼してもらったのは正解だったかもですよ?」
「……?」
依頼者は首を傾げた。
「話しは聞かせてもらったわ!」
急にこの探偵事務所の所長である花蓮がドアを開けた。
「あ、所長!」
いったいどこで話を聞いていたら、外から帰ってくるや否や依頼者の話を理解しているというのか。
そして、所長がいるという事は、当然ながらあの人も……。
「たっだいまー。あ、巧くんが美人と浮気してるー!」
この人はいつも楽しそうだ。秘書兼お色気担当……? の三千華さんだ。
「三千華さん、やめてください。依頼者さんなんですから」
「あ、ごっめーん♪」
いや、その片目ウインクで舌がちょろっと出てる「ごっめーん」はめちゃくちゃ可愛いですからーーー!
「あの……この方たちは……?」
依頼者の海野乙姫さんは少し困惑気味に尋ねた。俺は少しドヤ顔で答えた。
「このふたりと俺で『仕返し屋』なんですよ」
○●○
「仕返し屋」とは、その名の通り依頼者に成り代わって仕返しをしたり、依頼者をサポートして仕返しをする者である。
所長は花蓮(かれん)。探偵事務所の所長兼仕返し屋のリーダー。身長143センチと小柄。さらさらのロングヘアに世の中を見透かしたような半眼が特徴。
秘書は三千華(みちか)。探偵事務所の秘書兼ハニートラップ担当兼仕返し屋の実行役の一人。道を歩けばほとんどの男が振り返る程の美貌が武器。
そして、俺。巧(たくみ)。探偵事務所の力仕事と雑務担当兼……奴隷。仕返し屋の実行役の一人でもある。
不条理な世の中の一筋の光、仕返し屋はあなたの悔しい思いを晴らします。
○●○
■反撃開始
「巧さんが『仕返し屋』ってことは分かったんですけど……」
再度、海野乙姫が探偵事務所を訪れていた。巧は依頼人の海野乙姫に「仕返し屋」は仕返しの代理や補助をするという事を既に説明されていた。しかし、当の依頼人はご不満の様子。その表情からすぐに分かった。
巧が彼女に「任せてください」と言ってからすでに4週間。目立った動きがなく海野乙姫はしびれを切らしていたのだ。
「じゃあ、仕返しのプランをお知らせします。
「ちょっと待ってください! 私は仕返しがしたいんじゃないんです! あの女を殺そうと思ってるんです!」
その勢いに一瞬、巧がたじろいだが、そのまま顔を近づけた。今度は海野乙姫が怯む番だった。そして、巧は静かに言った。
「ただ殺すんじゃなくて、極限まで後悔させてから殺すのはどうですか?」
「……いいですね。詳しく教えてください」
海野乙姫はニヤリと微笑んだ。彼女は本気だった。それほどまでに彼女の怒りの炎はたぎっていた。
「まずは、海野家に盗聴器を仕掛けました」
「はぁ~~~!? そんな事が可能なんですか!?」
海野乙姫はものすごく驚いていた。
「俺がリフォームの営業になりすまして無料点検の名目で家に潜入したし、こちらの三千華が兄嫁さんにと化粧品の訪問販売でも訪問して来ました」
「なんでそんなことできるんですか!? 普通、どっちも玄関ドア前で追い返されるやつじゃないですか!」
海野乙姫の実家は一軒家だ。訪問販売はかなり多い。マンションと違ってインターホンとオートロック付きのエントランスがないので、営業の訪問は多い。だからこそ、ほとんどの営業を断る術を持っているはず。そこに2人も入ってきて、その上盗聴器まで仕掛けてくるなんてこの2人、とんでもなく優秀なのでは!? ……と、海野乙姫は驚いたのだ。
「うちのメンバーは優秀なので」
所長の花蓮が小さい身体ながら腕組みをしてどや顔で言った。もっとも、クールな彼女なので、それがどや顔だと分かったのは同事務所のメンバーだけだったのだが。
優秀も何も縁もゆかりもない家に入り込んでその家の人間に悟られないように盗聴器を仕掛けてくるというのはかなり難度が高い。しかも、盗聴器と言えば大きく分けて3種類あるのだが、その一番難易度が高いものを設置してきたのだという。
「一番手軽で現実的なのはコンセントに付けるタイプで二股になっていたりするものです。電源供給がコンセントからされるので半永久的に使えます。他には電池内蔵のカードタイプです。厚みが6ミリしかなくてクレジットカードと同じ大きさなので相手の荷物に忍ばせたりすることができますが、電池が概ね1日しか持ちません。最後に一番難しいのがコンセントのパネルの裏に取り付けるタイプです。電源供給されるので半永久的に使える上に外からは見えません」
「ちょっと待ってください」
ここで海野乙姫が手のひらを巧に向けて話を遮った。
「あの実家ですよ? 実の娘の言うことも聞かないダメな両親と芯の芯まで意地が悪いあの兄嫁と、それの言うことを丸々信じるあの兄たちの家に入って、その壁の中に取り付けるという盗聴器を付けてきたって言うんですか!?」
「そうなりますね。まあ、乙姫さんからしたら信じられないかもしれませんね」
んんん、と一つ咳ばらいをして巧が詳細を説明し始めた。
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