小海線について

島尾

赤字路線に対して、俺は何をすべきか

 今知った。山梨の小淵沢駅に行く用があって、どういう経路を辿るべきか探っていたら、小海線の存在をまず知った。正確には思い出したと言うべきだろう。何年か前にどこかで聞いたことのある名だと気づいたが、自分の生活には全く関係無いどこかの鉄路という認識しかなく、今に至るまで忘却していた。よって「今知った」という表現は本来不正確であるが自分にとって無意味という現実を表現するにはとても良い。


 私の住むところから北に行ったところに、陸羽東線という赤字路線がある。ほとんどの小淵沢の人間には無縁だと思う。陸羽東線は、特に鳴子温泉から新庄の間の経営が厳しいという。いつだったか忘れたが、「陸羽東線に乗ろうよ」と印字された、のんびりした見た目の缶バッジが無料配布された講演会が開かれた。同じく赤字路線で豪雨災害に見舞われ、外国人の誘致によってなんとか首の皮一枚つながった某赤字路線の関係者が、雄弁に成功論を語っていた。その後、山形北部すなわち新庄付近に豪雨災害が襲いかかり、鳴子温泉から新庄の間はついに電車が走らなくなり、今は無人の線路が朝と夜の往復を繰り返している。代行バスが走っている。

 とある地元の方は言った。おそらく電車は二度と走らないだろう、と。しかしネットで調べたら、被災した区間を工事しているようだった。私は、本当にそれで良いのか疑問に思った。それはきっと私だけでなく、その地元の方、そして多くの該当地域の住民も疑問または懸念を持っているのではなかろうか。一方で希望を捨ててはいないかもしれないと思う。現に代行バスを走らせる中でも工事をしたし、鳴子温泉−中山平温泉の間には鳴子峡という断崖に木々が色づく紅葉スポットがあって、断崖と断崖の間にかかった線路上を一瞬電車が通るのだが、この風景は大々的に広告に採用されている。何より、単に「電車を無くしたくない」という感情が根底にあるのではないだろうか。そして私もその感情を持つ世間知らずの一人である。


 代行バスを1日に何人が使っているのだろうか。少なくとも、私が訪れたときは4人だった。多いのか少ないのか、基準を知らない私にはなんとも言えない。


 さて、今回私は小淵沢駅に行く。経路として最もリーズナブルなのは、新宿から出る特急を使うことだ。それは小海線を使わないことを意味する。一方で、佐久平駅から小淵沢駅まで小海線を使うルートもある。これを使うには新幹線に乗る必要があるし、佐久平に到着して1時間待つ必要がある。前者よりも後者の方が2,000円高くつく。前者は2時間34分で到着するのに対し、後者は4時間15分かかる。私は15時までに小淵沢駅に着いていればよいのだが、前者は7分前に、後者は36分前に着く。そして、現代社会はコスパとタイパを重視している。にもかかわらず私が後者を選んだ理由がある。


 一度見てみたいと思ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小海線について 島尾 @shimaoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画