#7

「わん!」

 かぐが、道端の草むらに向かって吠える。

「なんだなんだ、ここ掘れワンワン、財宝か?」

 お調子者の絵師がかぐのあとを追う。

「おや、優曇華うどんげの花だ」

 覗き込んだ絵師が言う。

「えっ?」

 思わずゆみも並んで覗き込む。

 低木の葉の裏から糸状のものが伸びてその先にごく小さな白い花の蕾が付いている。確かに、未だかつてこのような奇異な花は見たことがない。

「優曇華の花って、三千年に一度咲くっていう伝説上のものでしょう? これが? まさか」

 振り返ると、絵師がにやにやしている。

「やっぱり嘘なのね」

 小さな蕾に見えたものは、クサカゲロウの卵だという。

「いや、信じれば本当になるんさ。はかなき浮世ってのは、そんなもんでしょ」

 飄々とぬかす。

 なればこそ、紡ぐ物語があの子の弔いに、いや生かすことにもなるのだろう。

 確かに、ゆみにとってはそれが幻の花だろうが虫の卵だろうが差異はない。ならば、優曇華の花を見たということにしよう。吉兆の花だから。

 姫は仲間とともについに幻の花を見つけて、物語は幕を閉じた。

 めでたし、めでたし。

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