第五章――記憶を失うアンドロイド、崩れる未来
1. 幸せの影に忍び寄る不安
充実した旅を終えて自宅に戻った真一は、どこか晴れ晴れとした表情をしていた。アンドロイドの香織も同様で、旅で覚えた料理のレシピを試そうとキッチンで張り切っている。
しかし、その新しい日常には不穏な知らせが飛び込んでくる。世界各地でクラッカーがばらまいたウイルスがアンドロイドの感情プログラムを破壊し、記憶領域まで蝕んでいるという報道だ。感染した多くのアンドロイドが、制御不能で廃棄せざるを得なくなっているらしい。
真一は自分の企業の研究所から呼び出され、ウイルス解析チームの一員として急遽出動する。しかし、数日後、自宅へ戻った彼は思わぬ光景を目にする。
キッチンで皿を洗っていた香織(アンドロイド)が、突然手を止めて皿を落として割ってしまったのだ。普段はありえない動作ミスに、真一は駆け寄る。
「どうした、手が滑ったのか?」
「わ……わからない……。ふいに目の前が真っ暗になって……」
香織(アンドロイド)の声音は震えている。真一は彼女の脳(AIコア)を簡易スキャンすると、そこには嫌な警告が点滅していた。ウイルス感染の可能性あり――。
「くそ……早かったな……」
真一は苛立ちを隠せず、彼女の手を引いてリビングの診断機器へと連れて行く。手足の機能に一時的な不具合が出るだけでなく、問題は“記憶領域”への侵入だ。まるで、かつての樋山香織が脳腫瘍で記憶を失っていったときの悪夢が再来するように、今度はアンドロイドの香織からも思い出が少しずつ奪われていく危機が迫っていた。
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