2. 叶わなかった修学旅行の地へ
そしてさらに数日後、真一は香織(アンドロイド)を連れ、古都・京都と奈良を訪れる。ここは、亡き香織が高校2年生のときに病状の悪化で参加できなかった修学旅行の行き先だった。
桜の季節は過ぎ、初夏の青葉が美しい。寺社仏閣を巡ると、どこからか涼やかな風が吹き抜ける。石畳を踏みしめるたびに、真一は香織がここに来られなかったことを思い出し、胸を苦しくする。
「香織(アンドロイド)、ちょっとこっち来てみろ。ここから五重塔がきれいに見えるんだ。オレは写真でしか見たことないけど……実際に来たらやっぱり迫力が違う」
真一に呼ばれ、香織(アンドロイド)は古い石段を上がって並ぶ。二人の視界には、古色蒼然とした塔が青空にそびえ、歴史の流れを感じさせる壮麗な景色が広がっている。
「すごい……こんなに長い時間を経ても、ずっとここに立っていたんですね。人間の営みの上に、こういうものが受け継がれてきたなんて……」
彼女はしみじみとした口調でつぶやく。その横顔はどこか儚く、まるで樋山香織がここに居たらきっとこんなふうに感じただろうと思えるほど自然だった。
真一は寺社仏閣に対して、長らく嫌悪を抱いていた。“神も仏もない”と、香織を救ってくれなかった運命を恨んでいたのだ。しかし、今こうして香織(アンドロイド)と並んで見る古都の景色は、不思議に穏やかな感情を呼び起こす。
「オレも、少しはわかった気がする。あのとき香織がここに来たら、同じように感動したんだろうなって……」
香織(アンドロイド)は微笑んで、そっと真一の手を握る。彼も黙ってそれを受け止め、見下ろす石段の先に広がる歴史ある町並みに視線を落とした。――こうしていると、本物の香織がそこにいるのか、アンドロイドの香織なのか、もう境界がわからない。 しかし、不思議とどちらでもよくなってくる。
「今オレは確かに香織と一緒にいる――その事実があればいい」
真一の心はゆっくりと変わり始めていた。
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