3. 水族館の再来

 翌日、晴れ渡る空の下、二人は少し郊外にある大規模な水族館を訪れる。樋山香織はここが大好きで、なかでもクラゲの大きな水槽から離れなかった。館内はさまざまな水生生物の展示で賑わい、大勢の家族連れやカップルが行き交っている。

 照明を落としたクラゲコーナーに足を踏み入れると、一気に静寂が広がる。淡く青い光に浮かぶ無数のクラゲが、ゆったりと漂いながら微かなきらめきを放つ。

「すごい……まるで宇宙みたい」

 アンドロイドの香織が思わず声をあげ、近づいていく。ガラス越しに、水中でたゆたう小さな命を目に焼きつけるように見つめる様子は、生身の人間そのもののように見えた。

「……本当に、ここは香織が好きだったんだ。クラゲはふわふわで、でも意外と危険もあるから、オレは心配してた。けど彼女は夢中で……はは、いつも離れなかったっけ」

 真一がそう呟き、懐かしそうに微笑むのを横目で見ながら、アンドロイドの香織は切なげに答える。

「本物の香織さんも、同じ景色を見ていたんですね。私も、今こうしてその一端を共有できているのが、すごく嬉しい……」

 ささやかな会話を交わしながら、二人は暗い水槽の前でじっと立ち止まる。まばらに聞こえる周囲のざわめきはまるで遠い世界の音のようだ。水の中を漂うクラゲのように、二人も時間の流れを忘れていた。

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