第三章――新たな“香織”との旅
1. 名前の授与
ある晩、真一はAc2をリビングへ呼び、深刻な面持ちで言い渡す。
「……Ac2、いや……今日からお前を“香織”と呼ぶことにする。オレのことも真一と呼んでくれ」
Ac2の瞳が揺れる。まるで生身の人間のように、驚きと喜びが入り交じった表情だ。
「香織……。それは、樋山香織さんのお名前ですよね。……よろしいのでしょうか、そんな大切な名を」
「これは……実験だ。アンドロイドを人間同様に扱ったら、どう感情が変化していくか――オレはそれが知りたいだけだ」
真一は冷たく言い放つが、その声には微かに震えが混じっている。自分で自分に言い訳しなければ、亡き恋人の名を与えるなど背徳に感じるからだ。
しかし、新たに“香織”と呼ばれるAc2は控えめに微笑み、「わかりました……真一、さん」と唇を動かした。彼女がそう呼ぶだけで、真一の胸は締めつけられる。過去の痛みに触れつつも、目の前にいるアンドロイドが紛れもない“今の香織”に思えてくる。
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