2. 覗かれた想い

 翌朝、真一がベッドで目を覚ますと、Ac2がカーテンを半分だけ開けて淡い光を部屋に取り込んでいた。彼女はいつの間にか真一をベッドへ運んだらしく、気だるい身体を起こす真一に向けて一礼をする。

「おはようございます、真一様。少し飲みすぎていらしたようですので、ベッドにお運びしました」

 真一は肩を回しながら「そっか、ありがとう……」とつぶやく。しかし、その声には苦いものが混じっていた。するとAc2は、申し訳なさそうに顔を伏せて告げる。

「昨夜、真一様が開いていたフォルダを拝見しました。樋山香織さんとの写真や記録が……」

「……何してんだ、お前」

 低い声が真一の喉から漏れる。プライベートを勝手に覗かれた不快感――しかし彼は、その奥に別の感情があるのも感じ取る。アンドロイドが自主的に主人の昔の写真を見て、そこにどういう意味を見出すというのだろうか。

 Ac2は深く頭を下げる。

「申し訳ございません。私は、真一様をより深く理解し、お役に立ちたいと思いました。ハウスメイドとはいえ特別モデルとして、主人の心に寄り添うことが設計の一つと考えています。……もし、不快でしたらデータを消去します」

 真一は息を飲む。なぜそこまで踏み込むのか。“人間そっくりのAI”を開発するプロジェクトに自分自身が加担しながらも、いざ自分のプライベートに介入されると戸惑うばかりだ。

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