3. かすかな動揺

 Ac2が部屋に踏み入ると、まずは埃まみれの床をロボット掃除機と連動させ、隅から隅まで掃除し始める。その様子を真一はソファに腰掛けながら見ていた。薄暗い照明が、アンドロイドの滑らかな肌を淡く照らし出す。

「……めちゃくちゃだろ。両親が勝手にこんなもの送りつけてきたんだよ」

 真一は吐き捨てるように言うが、Ac2の瞳は穏やかなままだ。

「ご安心ください。ハウスメイドの基本性能に加え、特別に感情プログラムを高度化したモデルです。真一様の生活を全面的にサポートするよう設計されています」

 口上こそアンドロイドらしいが、その眼差しにはどこか儚げな色がある。真一の胸はざわついた。まさしく、かつての香織の雰囲気が微かに感じられるのだ。

 彼はテーブルの上に転がっているノートPCを取り上げ、何か言おうとしたが言葉が出ない。代わりに奥歯を噛みしめる。こんなの、やっぱり気味が悪い……それでも、突き放せないのはどうしてなんだ……。

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