居候先の少女はニヒラナイ
従姉妹と残暑
天変地異のような一日は呆気なく終わり、ここ数日の僕は何気ない日常を存分に謳歌していた。
長い夏休みも始まり、僕を毀誉褒貶で縛る人間関係や大学は見る影もない。
しかし、杏夏とその周囲を取り巻く超常現象に対する期待感と罪悪感とが織り混ざった歪な感覚が、僕の脳裏にこびりついて離れなかった。
「タイムリープか」
僕はクーラーがキンキンに効いた居候先のリビングにて、アイスを頬張りながらただボーっとしていた。
大学進学を機に叔父の家にこうして居候することになったのだが、両親がいないだけで猛暑続きの夏も実に快適である。
別に夏の風物詩である風鈴やサイダー、スイカなどがあるわけではないが、月見月にこうして惰眠を貪ることが出来ること自体、僕に夏の魔法を信じさせるのに十分だった。
「大学生のくせに遊ばないのか〜?」
僕が微睡みと現実の狭間でうとうとしていると、いつの間にかリビングで勉強を始めていた従姉妹の侑芽がこちらを訝しげな表情で睨んできた。
ダイニングテーブルにはシステム英単語や速読英熟語、ネクステ、世界史実況中継などが無造作に並べられており、どこか懐かしさを感じる。
「そんな気力残ってないからなー。まあ、そもそも友達すらいないんだが」
「…そんな夢も希望もないことを受験生に言うなよ〜。私も秀一と同じ大学志望してるのに」
こうして無駄口を叩いている間も侑芽のシャーペンは絶え間なく動いていた。
夏の静けさの中、蝉の叫び声とペン先に紙が擦り切れる音だけが響き渡る。
それはどこか思春期故の特権のように思えて、少し嫉妬してしまった。
「すまんすまん。…どういう風の吹き回しでうちの大学受けることにしたんだ?」
「特に意味はないよ。世間的に見てそこそこだと思われるし、受かりそうな感じの難易度だしって感じ。何より近いしね」
「そうか」
溶けて原型を失い始めたアイスクリームを急いで舐める。
バニラのあざとい味が口いっぱいに広がり、細胞へ染み渡っていく。
「……秀一こそ何か私に言うべきことあるんじゃねーの?」
侑芽はシャーペンを置き、どこか期待を孕んだ視線をこちらに向けてきた。
それは恋でも友情でもない得体の知れない何かであり、思わず戦慄してしまう。
「急にこの家に住み始めてごめんってことか?確かに思春期の女子高生からしたら、芋男と住むのなんて苦痛以外の何者でもないだろうからな」
「ちげーよ。そうやって茶化すんじゃなくて真剣に答えろ」
他に何があるだろうか。
心当たりがあり過ぎて、どれか一つに絞り込めない。
「…すまんが、全く見当もつかないな」
「……あっそ。秀一はいつもそうやって1人で…!!!ッッッ。もういいや」
侑芽は肩を震えさせながら、どこか縋るようにこちらを睨みつけてきた。
何も理解できない僕はただ夏の暑さにやられ、立ち尽くだけだった。
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