第2話

慌てふためいていると、

まるで天国にいるかのような

女性の歌声が私の周りを覆う。

 どうしようと、頭を抱える。

先ほどまではあった。

 私が珈琲を注いでいるあの瞬間、

もしくは私が奥側の座席から

ドリンクコーナーへ向かう時間、

秒数にして往復七秒。珈琲を注いでいた八秒。計十五秒の間に私の鞄が盗まれた。 

 身の回りを見る。

開かれたパソコンは盗まれていない。

机上の異変は見られない。 

 この席から店内を見渡す。

 どの席に座っていたとしても、

この席にたどり着くまでには時間がいる。

 一番近い席に座っているのは

長い髪の女性だ。偏見などではないが、

彼女ではない、と思う。

しかしながら彼はどうだ。

私のいる場所からすると三メートル。

彼でもなさそうだ。

第一彼は私が珈琲を注いでいる間。

その場所でパソコンで作業をしていた。

彼女も同様でその場にいただろう。

 そのほかにはどうだ、

店の中央にあるドリンクコーナーより先、

私の席から見ると反対側の座席に座る面々だ。気高い老人とカップル。夜も遅いこともあり、客人は限られている。誰が鞄を盗んだんだ?

もしくは鞄自体、

存在していなかったのか?


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