鞄がない

雛形 絢尊

第1話

閑散とした田舎町のファミリーレストラン

「ファミリーファーム」では

今日も決して多くはない、それこそ、

毎日お客の入りがほぼ同じで安定感を放ち、

地域で今日も愛されている。

フリーライターの私はなけなしの給与と

引き換えに今日もトイレが一番遠い角の席

(空いていなければドリンクバーの隣)

で文を書き綴っている。 

 気が付けば今日も360円の

ドリンクバーのみを頼み、三時間が経過した。思ったよりも短く、いつもの繰り返しである。実際、毎日この場所に

足を運んでいるわけではない。

 三日に一度、多ければ二日に

一度のペースだ。

ごくりごくりと堂々と、淡々と

アメリカンブレンドをすする。

堂々と、堂々と。

 店側からすれば失礼極まりないだろう、

しかしながら迷惑をかけていない。

だからいいだろうとまた立ち上がり、

ドリンクコーナーへ向かう。

湯気が立つ珈琲メーカーを見ながら

時計を見る。

閉店時間の22時半までもう少し。

この一杯が今日の終わり。

 店内には讃美歌のような曲が

頻繁に流れており、

眠気をこれでもかと思うほど誘う。 

 疲れた足取り

(正確には座りすぎて疲れている)

で自席に戻ると、

何かがおかしい、

その異変に気が付いたのだ。

 鞄がない。

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