『三宮小春』の場合

林間学校、苦手なイベントです。

共同作業は向いてないし、体力はないし、影は薄いし、最初は仮病しようかと思っていました。

休まなかったのは、涼くんのおかげです。

繋がる赤い糸が囁くのです。

行かないの?

行こうよ。

一緒にって。

だから小春は、はい行きますと、答えました。


糸はピンっと張っています。

登り坂、クラスの後ろの方にいても、涼くんがどこにいるかわかります。

感じるのです。

山登りも辛くありません。

むしろ、楽しいです。

ワクワクします。

ああ、ずっと、このまま、後ろから、涼くんを眺めていたいです。




山を下ったあとは、飯ごう炊飯の時間です。

お料理は苦手ではありません。

ですが、普段からあまり食べないので、大人数の支度となると苦手です。


炊く前にまずはお水が必要です。

水道はどこでしょうか。

後ろにありました。

涼くんもいます。

糸が繋がっている証拠です。

今が声をかけるチャンスです。

さぁ小春、前に一歩進むのですよ!


「ワタシが通りまーす」

「ドゲフッ!」


何ですかいまのは?

あれは……四手してさん。

小春の前を一般通過しないでください。

戻ってきて小春の前に立たないでください。

変な声出ちゃったじゃないですか。

涼くんに聞かれてたら、お嫁なんていけないですよ。

あれ?

どうして涼くんの隣に、いつの間にか六道ろくどうさんがいるんですか?

四手さんと六道はグルなんですね。

そうなんですね。

許せません。

呪います。



ああ、今度は七谷ななやさんと飯ごうをつついてるじゃないですか。

ズルいですよ。

八釘やくぎさん、もっと言ってやってください。

小春は八釘さんを応援します。

味方です。

でも七谷さんは敵です。

だから呪います。





夜のキャンプファイヤーは苦手です。

小春にできることは、涼くんを見つめることだけです。

小春の念を、愛を注ぐだけです。

どこからか、蛇のように睨まれた気がします。

警戒は、怠らないほうがいいみたいです。

涼くんの背後は、この小春が守るのですから。

















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三宮小春がクラスの人の名を言うときは、苗字+さん付けです。男性の場合は、苗字+くん付け。十方の場合は心の中も涼くんです。

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