第8話
「シデラ作戦と呼ばれる戦争が起きました。戦争の主導者はテレスコピア合衆国。戦地となったのはルキシア王国です」
「ルキシア。嫌な名じゃ」
「被害を受けたのはルキシア王国です」
「いや、いい。続けてくれ」
魔女は親の仇を見るような目を、窓に向ける。
タウルスは頷き、続ける。
「戦争は、悲惨なものでした。ルキシア王国にまともな兵力はなく、テレスコピア合衆国は最新鋭の魔法技術を持っていましたから。鉄器で防衛するルキシア王国を、藤の枝で駆逐するようなものでした」
タウルスは辛そうに言葉を選ぶ。
タウルスは人間よりも優秀な頭脳で、忘れることもなく、色褪せることもなく戦争の情景を完全に覚えている。
戦火で燃える魔導人形のにおいも、喉から絞り出される金切り声も、倒壊するガレキに肉が押し潰される振動も。
指先に残るヒリついた感覚も、最期まで生き残ろうと逃げる人の背中を、死を目前にした人の目も。
ぐし、とタウルスは髪を掴む。
強靭な繊維でできた頭髪は、その程度では痛まない。
「ルキシア王国は大量に魔導人形を抱えていたはずでした」
「それは、本当に争いの道具だったのかのう」
「だとしても、一国が急激に魔法使いを増産すれば、他国からは充分な脅威となり得る。攻撃されても文句は言えませんでした」
「その戦争はお主ひとりの責任ではあるまい。そうじゃろ?」
タウルスはその言葉に反論できず、悔しいでも安心するでもなく、ただ困惑した。
そんな少年に、魔女は苦しそうな顔をして、タウルスを抱きしめた。
「さぞ辛かったじゃろう。これじゃから、人間は嫌いなんじゃ」
「……僕は、魔導人形です。感情はありません」
「そんなわけ、なかろう」
魔女は一層強くタウルスを抱きしめる。
人の手によって生まれ、人殺しの道具にされて、死にたいとのたまい、ここまで逃げてきた。
そんな少年を、どうして。
ただの人形だからと一蹴できるだろうか。
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