第7話

 少年の体はすっかり綺麗になり、まさに人形めいた、作り物としか言いようがないほどの美少年になっていた。

 化学繊維でこしらえられた黒いローブを着て、魔法使いの弟子といったような風貌になっている。

 しかし眼球の水晶体は、右目が砕けてすでになく、左目のほうはルビーのような赤色をしていたが、ヒビ割れて使い物にならなかったため、包帯が巻かれている。 

「我々人間のエゴで生み出してしまったお前さんたちのことを、同情するよ」

 人が寄り付かない場所に住み着いている魔女は、傷だらけの少年の魔導人形を、手厚く歓迎した。

「お前さん、名は何という」

「……コード、タリウス」

「そうか、タリウスか。力強い名じゃのう」

「……あなたは」

「はて、なんじゃったかのう。人間は今の儂のことを、単に裸山の魔女と呼んでおるよ」

「……」

 人に名前を聞いておいて、名乗る名などないと言う。

 そんな魔女へ、タウルスは奇異の目を向ける。

「……ここで、なにを」

「魔法とその歴史の研究じゃよ」

「……なぜ、この山で」

「人間が嫌いなんじゃよ」

 そう言う魔女の横顔は、ひどく寂しそうに見えた。

 人間嫌いなくせに、少年の世話を焼く。それは、タウルスが魔導人形だからだろうか。

 タウルスはそう考え、何か事情があるのだと察し、黙った。

「お前さんは、どうしてここに?」

「……酷いことを、たくさんしたから」

「それはお前さんの意思じゃないじゃろう」

「……僕は、人を殺すために作られたヒトガタです」

 タウルスは、ぽつり、ぽつりと話始める。

 自分のことと、戦争のことを。

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