第3話
翌日。
茶色の封筒を持ちながら、自分の部屋に戻っていた。
ポケットにしまっていた魔導端末からコールが鳴る。
缶コーヒーを一口飲んで、ゆっくり一息つけてから、通話に応じる。
「うい、こちら魔法執行人、ネモ」
「先日の暴行の件の資料は届いたな?」
「え? あー、どれだったっけな……」
「確認しろ」
どっこいしょ、と重い腰を下ろし、散らかったデスクの上に書類を広げる。タバコの吸殻が少し落ちたので、それをぱっぱと払い除けながら、政府の印が施された封筒を取り出す。
「あったあった」
「目を通せ」
書類には、加害者の情報が載っていた。
年齢は30代前半で、通信販売の電話番のアルバイター。魔法は『棘の魔法』だ。
押収したヤクからは、他国の呪術痕……いわゆる『ドラッグ』が検出されたという。
「魔法増強剤かあ」
これは使用者に多大な魔力と快楽をもたらすが、脳を溶かすと言われるほど危険な副作用を持つ術式だった。
そして被害者は魔導人形。
魔法で作られた人形とはいえ、人権は人間と同じだ。魂はひとつだし。
「こんな一介のチンピラに、魔導人形がやられるはずがない。よほど強力なバフがかかっていたことが想定されている。外的特徴はなかったか?」
タバコに火をつけ吸い込むと、思わずむせてしまった。
「あれ、これメンソールじゃん。間違えちゃった」
「話を聞け」
「聞いてるよ。キンピラごぼうには赤トウガラシを添えるといい」
「さっきの犯罪者の魔法は」
メンソール入りのタバコを灰皿に押しつけて、ポケットや引き出しを探し回るが、吸い残したタバコなどはなかった。
仕方なく、吸い殻入れの中からまだ葉っぱが残ってる吸い殻を拾って火をつける。
「弱かったよ。普通に」
「体に特徴はなかったか。紋様が浮かんでいたり」
「なかったと思うけどなあ」
「本当かっ」
ふむ、と俺は無精ひげを撫でながら思案する。
魔導人形は、普通に訓練された警官並みに強い。一般人では太刀打ちできないだろう。
のに、負けた。しかも一般人が強かったわけではない。
なるほど。これは不可解だ。
それに、上司の指令が、なんだかいつもより熱を帯びているように思えた。
普段から淡々と指示を出すし、事件の真相などにも大して興味を示さないタイプなのだが、今回はヤケに乗り気だ。
「いいかっ、ネモ。このドラッグを追え」
「どーやって」
「どーやってもだ。関連ありそうな仕事をガンガン振るからな」
「うへー」
「早速だが、次の仕事だ」
「マジかよ」
うんざりした様子で、フィルターぎりぎりまで吸ったタバコを、溢れかえった灰皿の上に捻じ込む。
二本目のタバコを灰皿から探していると、電話口から、こんな物騒な事件を提示された。
「脳みそだけくり抜かれた死体が発見された。現場を見てこい」
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