第19話 新天地への旅立ち

リアは静かな朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、神聖なひとときを感じていた。


闇の魔女が復活してから、朝に希望を見出すことなどなかったが、今日は違う。エルフの里を離れ、新しい拠点を目指して進む日が、ついにやって来たのだ。


周囲には、老若男女のエルフたちが集まり、祈りを捧げている。彼らはこの地に根ざして何千年も暮らしてきたため、故郷を離れることには一抹の不安があった。


年老いたエルフたちにとって、ここを離れることは、長い歴史を断ち切るような感覚だったかもしれない。しかし、それでも彼らは、リアの決断を信じて集まっていた。その光景を目にし、リアは責任の重さを再認識した。


「リア、準備は整った」そばに立っていた戦士エリオが声をかけてくれた。エリオは東の大陸に剣聖として名を馳せる有名な剣士だった。


リアにとってもエリオは頼りになる仲間であり、共に里を守ってきた存在だ。リアは彼に微笑みかけ、静かにうなずいた。


「ええ、エリオ。出発しましょう」


リアはアキラに連絡を入れ、いよいよエルフの里を離れて新たな拠点へ向かうことを告げた。アキラからの返事には緊張と決意が込められていた。


「リア、大丈夫か?事前に準備しておいた食料や水、テントのリストを作成したから、必要な時にすぐ送るよ。無事に拠点に到達できるよう、俺も全力でサポートする」


その言葉に、リアは深い感謝の気持ちが湧き上がった。彼のサポートがなければ、この道のりはさらに厳しいものになっただろう。


エルフたちはそれぞれの思いを胸に、西の山脈へと続く長い旅路に足を踏み出した。数千年の歴史を持つエルフの里を後にすることは容易な決断ではなかった。


とくに年長者たちはこの地を離れることを頑なに拒んでいたが、リアは彼ら一人一人に危険性を説明し、説得を重ねた末に今回の拠点移動を実現させたのだ。


「私がこの移動を提案したからには、一人も欠けずに新天地へと導かなければ」リアは強い責任感を抱いていた。


リアにとって、これはただの避難ではなく、すべてを背負った旅路だった。かつてクルスと共に魔女の瘴気と戦った経験がある事、復活を阻止できなかった事で、自らの手で封印しようと心に誓っていたのだ。


アキラは移動計画を事前に立ててくれていた。彼の使う「バトルビュー」を駆使し、道中の地形や休息ポイント、魔物の出没が少ないルートを丹念に選定していたおかげで、初日の移動は予想以上に順調に進んだ。


夜になると、アキラが転送してくれたテントが次々に設営され、エルフたちはテントの中で体を休めることができた。


また、彼が用意してくれた水や食料も分配され、エルフたちは異世界の食事に驚きつつも、恐る恐る口に運んでいく。


「これは……美味しい!」


暖かいスープが体に染み込み、みんなの表情がほころんだ。特に、簡単に温かい食事が取れるカップラーメンは大好評だった。異世界の味が彼らの心を温め、この過酷な旅路に一時の安らぎをもたらしてくれた。


翌朝、二日目が始まり、しばらくは順調に進んでいた。しかし、昼過ぎに差し掛かる頃、周囲の空気が次第に不穏になってきた。木々の間から聞こえる風の音や、重く湿った気配が漂っている。


「リア、森の奥から何かの気配がする」


エリオが低く告げ、周囲の戦士たちも警戒の態勢に入った。リアはすぐさまアキラに連絡を取り、バトルビューでの状況確認を依頼した。


「アキラ、近くに魔物がいるみたい。確認できる?」


アキラはバトルビューを起動し、数秒後にリアの周囲をスキャンした。「リア、3時の方向に100メートル先に魔物が2体いる。他のエルフたちと連携して慎重に進んで」


リアは仲間たちに指示を出し、まずは2時の方向にいる魔物たちに近づくことにした。エルフの戦士たちが円を描くように周囲を守り、魔物を取り囲んでいく。


リアは剣を構え、アキラのサポートに頼りながら確実に戦場の状況を把握する。最初の2体の魔物を迅速に仕留め、周囲のエルフたちも見事な連携で彼女に続いた。


だが、さらに進むと、予想を超える困難が彼らを待っていた。


「リア、少し左側の森の方を避けて進んでくれ。そこに魔物の小さな群れがいるから、ここをまっすぐ進めば安全なはずだ」


アキラの指示に従って、リアはエルフの戦士たちを導き、慎重に進んでいった。


アキラが送ってくれる情報が正確なおかげで、里の住民たちも不安を抱かずについてきているのがわかる。彼のサポートがなければ、これほど安心して進むことはできなかっただろう。


しかし、午後に差しかかる頃、空が急に曇り、薄暗い森が彼らを包み込んだ。アキラが突然、焦った声で連絡を入れてきた。


「リア、右後方から高速で接近する反応がある!おそらくかなり強力な魔物だ、すぐに警戒してくれ!」


リアはすぐにエルフの戦士たちに知らせ、後方の住民たちに速やかに進むよう指示を出した。すると、視界の端に黒い影が不気味に揺れているのが見えた。


魔物の姿が次第に現れると、その異様な姿に一瞬息を呑む。体格は普通の魔物の二倍以上、赤く輝く瞳と鋭い牙が闇の中で光っていた。


「みんな、陣形を整えて!ここで奴を押さえる!」


リアが剣を構えると、エルフの戦士たちもそれに続いた。しかし、魔物は一瞬の隙をついて鋭い爪を振りかざし、エルフの戦士の一人が吹き飛ばされてしまった。リアは瞬時に魔物の正面に立ちふさがり、鋭い一撃を放つ。


「アキラ、何か策はあるか?」


アキラはスマホの画面を凝視し、戦況を見守りながら答えた。

「リア、君の右側にある岩の影を使って、少し後退してくれ。俺が生成した煙玉を送るから、それを使って一旦敵の目をくらませよう」


リアはすぐにその場を飛び退き、アキラから送られてきた煙玉を手に取った。煙玉を地面に叩きつけると、白い煙が魔物を包み込み、視界が遮られる。


「これで少し時間を稼げる。さあ、みんな、一旦下がって体勢を整えるわよ!」


エルフたちはリアの指示に従い、慎重に後退した。煙が薄れていくと、魔物は混乱しながら辺りを探り回っている様子だった。


その隙にリアはエルフの戦士たちと再び連携を取り、魔物の弱点である腹部を狙う作戦を立てた。


リアはエルフの戦士たちに指示を出し、左右から攻撃を仕掛けるように促した。すると、戦士たちはすばやく移動し、魔物の攻撃をかわしながら、一斉に剣を振り下ろした。リアも同時に、力強い一撃を繰り出し、魔物の体を深く切り裂いた。


「リア、サポートが必要であればいつでも言ってくれ!」

アキラもアイテム生成の準備を整えておく。


魔物は狂乱したように咆哮を上げ、さらに激しい攻撃を繰り出してきたが、リア達はスピードを上げ、隙をついては斬撃を与えていった。そして、長い激戦の末、ついに魔物は崩れ落ち、闇に飲み込まれるように消えていった。


戦いを終えたリアは、大きく息をつきながら、アキラに伝えた。

「アキラ、助かった。君のサポートがなければ、もっと苦戦していたかもしれないわ。引き続き私たちに力を貸してほしい。」


「いや、リアが無事でよかった。……けど、これからも危険なことが続くかもしれないな。もっとしっかり準備しておくよ」


アキラは途中から見てるだけになって何もできなかった事と、リアからの指示がなければ動けなかった事を反省していた。

「戦況を冷静に見極めて先手を取らなければならないな」


リアも同時にアキラができる事を冷静に判断して私がリードしなければならないという決意を固めた。


もし、ディブロスのような強力な魔物が現れた時にクルスとの共鳴のように、倒す事ができるだろうかと一抹の不安を抱えて残りの旅路に向けて気を引き締めた。


この試練はまだ始まったばかりであり、道のりは長く険しいものになる。リアはそう確信した。

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