第18話 共鳴者としての責任
アキラは電話を切り、しばらくスマホを握りしめたまま静かに息をついた。
リアと話したことで、自分がリアルに異世界と繋がっているという感覚がさらに強くなり、胸が少し高鳴っているのを感じた。
彼女の言葉から、今の東の大陸がいかに過酷な状況にあるかを聞いたばかりで、目の前に迫ったような緊張感が襲ってくる。
ふと、普段の自分の生活が頭をよぎる。医者である親は、彼にも医者になることを期待していて、自分もそれに流されるように、その道を歩んできた。
毎日ただ勉強をして、親の期待に応えるだけの日々。それが自分にとって本当に意味のあることなのか、心の奥ではずっと疑問に感じていた。
「僕は……これまで自分で何かを成し遂げようとしたことなんてなかったんじゃないか」
そう呟くと、ますます自分が無力な存在に思えてきた。しかし、リアと繋がり、彼女のために自分の行動が役立つかもしれないと思うと、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
「もしかすると、リアと繋がったこの出会いが、自分にとっての転機になるのかもしれない……」
リアが過酷な戦場で命を懸けて戦っている中、自分は安全な場所から支援するだけではあるが、今の彼女にとっての命綱となるかもしれない。
自分の行動が誰かを救うことに繋がり、それが誰かのためになるなら、自分の力でやり遂げたい。もしそれができたなら、今までの自分の人生にはなかった、意義深いものになるだろう。
「リアとクルス……前の共鳴者だったっていう人はどんな奴だったんだろう?そいつは、あんな過酷な場所の彼女を支えていたんだよな……」
アキラは自分が共鳴者としてどれだけ役立てるか、実感が湧かないまま不安を感じていた。
自分がどこまでリアを支えられるのか、リアをどれだけ救えるのか。そんな迷いと不安が頭の中を巡るが、彼女の言葉に含まれた切実な想いが彼の心の中で徐々に使命感に変わりつつあった。
「とにかく、今自分にできることから始めよう……」
アキラは覚悟を決めてスマホを取り出し、必要な物資をリストアップし始めた。
西の山脈への移動には、多くの準備が必要だ。食料、水、暖かい衣類や布、長距離移動に耐えうる装備。リアとその仲間たちが安全に暮らせる拠点を確保するためには、どんな支援ができるかを一つ一つ考える。
特に気にかかったのは、長期移動や戦闘の最中に欠かせない「食料」だ。リアが言っていたように、東の大陸は瘴気が蔓延し、環境が悪化している。まともな食料を得るのも難しいかもしれない。そこで、アキラはまず「クリエイトキャプチャ」を使って栄養補給できるアイテムを生成できないか試してみることにした。
「このアプリで、食べ物も作れたら便利だよな……」
アキラはそう呟きながら、家の棚からカップラーメンを手に取り、スマホで写真を撮った。すると、画面に「カップ容器」「乾燥麺」「スープ粉末」「乾燥野菜」など、生成に必要な素材リストが表示される。すべて揃えられれば、リアにもこの温かい食事を届けられるかもしれない。
「なるほど……現実にある材料が必要なんだな」
彼は次に栄養捕食食品を試してみた。「クッキー生地」「ビタミン剤」「ドライフルーツ」といった素材が表示されるのを見て、アキラは生成のために必要な素材が現実世界に限られることを理解し始めた。「こういう簡単な栄養食なら、きっと役立つだろうな……」
アキラは栄養捕食食品を生成するための材料を揃えてみることにした。
材料をキッチンから集め、スマホで撮影しながら一つずつチェックする。すると、「アイテム生成可能」という表示が画面に浮かび、アキラは生成ボタンを押した。数秒後、画面には出来上がったカ栄養捕食食品の画像が映し出される。
「(材料は再利用できるのか?)」
もう一度栄養補助食品を作ろうとさっきの材料にカメラを向けると”使用済み”と表示され使う事ができない。
「(素材の再利用は無理なのか…)」
アキラは、食料だけでなくほかに必要なものがないか考え始めた。例えば、寒さから守る防寒具や暖を取る道具、あるいは怪我をしたときに使う応急処置用品も必要だろう。
「食料だけじゃない……戦いで負傷することもあるだろうし、火を起こすための何かもいるかもしれない」
彼は再びスマホのカメラを取り出し、今度はキャンプ用の小さなバーナーや簡易マット、包帯などの医療用品の写真を撮ってみた。素材の必要数や条件を確認し、生成可能なものを一つ一つ検証していく。
しかし、何でも簡単に生成できるわけではないことにも気づいた。複雑な機械はパーツから生成しなければならず現実の機械に対する知識も必要だという事がわかった。また火を起こす道具などはガスなどの現実世界の素材に依存しているようだ。
「バーナーとかの燃料使うのは難しいかも」
「なるほど……このアプリで作れるものには限界があるんだな。あくまで現実のものに頼る形になるけど、それでもこの場にいながら物資を補えるのは大きい」
アキラは自分の家にある素材の限界と、アプリの可能性を改めて理解し、リアへの支援を最大限に活かすために効率的に生成アイテムを選ぶべきだと感じた。
生成できるものに限界があるということは、転送できる限界もあるのだろうか。《シェアリンク》の限界を試してみる。
「うーんとりあえずある程度大きいものも転送時間はかかるけどアップロードできそうだな。」
彼の心には少しばかりの不安と、それ以上の希望が混ざり合った感覚があった。
自分がこのアプリを使ってリアのために物資を送ることで、少しでもリアの負担を減らし、彼女の安全を支えることができるかもしれないという小さな光明が見えてきたのだ。
「リアを支えてあの世界を救う手助けをする事が、今の俺の使命だって思えてきたな……これが、俺にとっての生きる意味になるのかもしれない」
アキラは心の奥底で静かに決意を固めた。
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