第17話 新しい絆

アキラはバトルビューを開き、画面に映るリアの戦場を見つめた。表示された地図には、リアが立っている丘の位置と、敵の存在が光点として示されている。


「リア、君の位置から2時の方向に2体、距離は100メートルほどだ。10時の方向にはさらに10体が見える。今、僕に見える敵はそれだけだ」


リアは深く頷く。「わかったわ。まず2時の方向の敵を片付けるわ」


「慎重に進んでくれ。最適なルートを算出したから、スクリーンショットで送るよ。敵の種類もわからないから気をつけて」


アキラはファイル共有シェアリンクでリアにスクリーンショットを送信し、リアはそのルートを見ながら周囲を警戒しつつ進んでいく。


丘を少し下りたところで、リアの視界に最初の2体の魔物が現れた。禍々しいオーラを放つ小柄な「ガーゴイル」たちが地面すれすれを滑るように飛び、牙をむき出しにしてこちらを睨んでいる。


「まずはこの2体ね…!」


リアは剣を構え、素早く動き出す。ガーゴイルが一斉に飛びかかってくると同時に、リアは剣を振り上げ、そのまま流れるように刃を振り下ろした。鋭い一閃がガーゴイルの一体を真っ二つにし、もう一体も連続した斬撃で仕留めた。


アキラはバトルビューで2体の敵が一瞬で消えるのを見て感嘆しつつも、すぐに次の敵への警戒を促した。「すごいな、リア。でも、次は手強いぞ。10時の方向にいる10体の魔物、数が多いだけじゃなく、かなり厄介そうだ」


「分かってるわ」リアは素早く体勢を整え、10体の魔物が待ち構える方角へと視線を向けた。


そこに現れたのは、重厚な体つきを持つ「オーガ」と鋭利な爪を持つ「シャドウ・ウルフ」。リアは少し息を整えながら剣を構え、攻撃のタイミングを伺った。


アキラは少し不安げな声で尋ねた。「リア、大丈夫か?無理はするなよ」


「…心配しないで、私は戦える」

リアは言葉を返しながらも、内心では不安を抱えていた。もしクルスがここにいれば、彼が使っていた精霊武装で一気に敵を片付けられるかもしれない…だが今はアキラがサポートしてくれている。クルスは今はいないんだ。


リアが剣を振り上げたその瞬間、シャドウ・ウルフが鋭い爪で襲いかかってきた。彼女はそれをギリギリでかわし、すかさず反撃を試みたが、すぐに別のオーガが巨大な腕で攻撃してきて回避が遅れる。


「くっ…」リアの声が響く。彼はリアが苦戦している様子を聞いて、必死に考えた。「どうにか、彼女にサポートできるものを作らないと…!」


アキラはアイテム生成アプリ「クリエイトキャプチャ」を開き、すぐに必要なアイテムをリストから選び出した。「…そうだ、このエナジーブーストを生成しよう!」


「ハチミツ、しょうが、栄養ドリンク…これならうちにある!」アキラは素早く台所を駆け回り、材料を手に入れて写真を撮り、エナジーブーストを生成した。そしてファイル共有でリアに転送する。


「リア!エナジーブーストを送った。これで体力とスピードを向上できるはずだ」


リアの手元に小瓶が現れ、彼女はその場でそれを一気に飲み干した。体にみなぎる力を感じ、再び戦意が高まる。


「ありがとう、アキラ!これで…もう一度!」


再びオーガとシャドウ・ウルフが襲いかかるが、リアは冷静に攻撃をかわしながら一体ずつ敵を片付けていく。オーガの硬い皮膚に剣が弾かれそうになる度に、リアは自分の力を信じ、素早い連撃で敵を打ち崩した。


アキラもリアの動きをバトルビューで見守り、逐一敵の位置や動きを伝えていた。「リア、左にもう一体シャドウ・ウルフが来る!」


リアはその指示に従い、すばやく剣を振り向かせ、シャドウ・ウルフを仕留める。そして残りの敵にも次々と剣を繰り出し、全ての魔物を倒していった。


最後の一体が倒れ、静寂が戻る中、リアは息を整えながら呟いた。「ありがとう…アキラ」


アキラはスマホ越しにリアの言葉を聞き、心の底から安堵の息を漏らした。「こっちこそ、無事で何よりだよ。俺も少しは役に立てたかな」


リアは微笑んだ。「ええ、この勝利は君のサポートのおかげよ」


アキラはバトルビューでリアの戦場を確認しながら、彼女が置かれた状況の厳しさを改めて実感していた。


彼のスマホ画面に映る戦場の地図には、異様な闇と瘴気に包まれた地形が表示され、リアの戦いが日常的なものではないことが痛いほど伝わってきた。


リアは少し疲れた様子を見せながらも、真剣な表情で話を続けた。

「アキラ、今の東の大陸の現状をしっかり理解してほしい。闇の魔女が復活してから、私たちの故郷は大きく変わってしまったの。大地も空も、瘴気に覆われて腐敗が広がっている。そして、その闇に引き寄せられるようにして魔物が大量発生しているの」


アキラは、リアが語る異世界の状況に耳を傾けながら、ただの異世界の話ではなく、自分にも迫ってくる現実のような感覚を覚えた。彼の胸には、リアが一人でこの厳しい状況に立ち向かっていることへの強い尊敬の念が湧いてきた。

「闇の魔女…?それだけ酷い状況で、君はずっと戦ってきたんだな……」


リアは少し視線を落とし、冷静に言葉を紡いだ。

「ええ、でも一人ではないわ。今もエルフの仲間たちと共に、このエルフの里を守るために戦っている。ただ、この里ももう限界が近い。魔女の瘴気は日々、私たちの生活圏を侵食してきている。魔物の数も増え続けて、もはやまともに人が住める場所が限られている状況なの」


アキラはその言葉に息を呑み、リアの覚悟を感じながらも、彼女が抱える重い使命を改めて理解しようとしていた。

「リア、本当に大変な状況なんだな……でも俺はただアイテムを作成するだけで本当に十分なのか?君の負担を少しでも減らすために、もっと役に立てる方法を探したい」


リアは少し考え込み、彼を励ますように柔らかく答えた。

「あなたがすでに持っているアプリは、大きな力になってくれるはずよ。実際に戦っていると、ポーションや武器などの物資が本当に足りなくなってくるの。でも『アイテム生成』や『ファイル共有』があれば、今の私にとってどれだけ助かるか……あなたの力で支えてもらえれば、それだけでも十分なの」


「そうか……それなら、僕にもできることはあるんだな」アキラは手元のスマホ画面を見ながら、生成できる回復アイテムの種類や素材を確認し、すぐに何か役立てないかと考え始めた。


リアは遠くを見つめるようにしながら、やや迷いを見せつつ言葉を続けた。

「でも、アキラ……このままここで踏ん張り続けても、いずれ限界が来る。それまでに、他の安全な拠点に移動する必要があるの」


「別の拠点か……」アキラはスマホ画面を見つめながら、戦場解析バトルビューを起動し、周囲の地形を確認し始めた。

「じゃあ、次はその新しい拠点を確保するために何ができるか、具体的な方法を考えてみるべきだな」


リアは、しっかりとした目でアキラを見つめながら、「私が目指している場所は、ここから少し西の山岳地帯よ。瘴気の影響が少ない場所で、守りやすい地形もある。そこに拠点を構えて、しばらく立て直しを図る必要があるわ」と話した。


「それなら、次はその場所への安全な移動だな。俺もバトルビューで周囲の状況を確認しながらサポートするよ」アキラがスマホを操作し、周辺の魔物の配置やリアが進むべき道を把握しようとする。


「それと……もう一つだけ、私にはどうしても確かめたいことがあるの」リアの声には、いつも以上に力強い決意がこもっていた。


アキラは驚きながらも、彼女の言葉を真剣に聞き取った。「確かめたいことって?」


リアは少しの沈黙の後、静かに答えた。

「光の力よ。私たちエルフの一族はかつて『光の民』と呼ばれていた。だけど、今はその力を持つ者はいなくなってしまった。でも、闇の魔女に対抗するためには、きっと光の力が必要になる。だから私は……その力の痕跡を見つけ出したい」


アキラはその言葉に少し驚き、リアの強い意思を感じ取った。

「光の力……それがあれば、闇の魔女に立ち向かえるってことなんだな」


リアは頷き、さらに深い決意を込めて言葉を続けた。「ええ、私たちはこのままではいずれ闇の魔女に完全に飲み込まれてしまう。だから新しい拠点で、準備を整えつつ、光の力を探し求める。それが今の私たちの目指す道よ」


アキラはその言葉を聞きながら、胸の奥に強い責任感と決意が湧き上がってくるのを感じた。

「わかった、リア。俺も全力でサポートする。まずは次の拠点までの道のりを確保しつつ、もし光の力に関する手がかりが見つかれば一緒に探してみよう」


リアは感謝の微笑みを浮かべ、アキラの存在に支えられていることを改めて感じていた。

「ありがとう、アキラ。あなたが共鳴者としてそばにいてくれることが、今の私には何よりも心強いわ」


一方でリアの心の奥底には、まだクルスとの繋がりへの想いがあった。かつて共鳴した彼の存在が、今もリアの心の中で生き続けているのだ。


(でも本当に…本当に私が一番確かめたいのは、クルスとの絆……)


心の中でそう強く想いながらも、リアはアキラに向き直り微笑んだ。今は彼の支えを受け入れ、この闇の中で新たな戦いに挑むべき時だと決意を新たにした。そして、いつかまたクルスと再び繋がる日まで生き抜こうと心に誓った。

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