第16話 リアと新たな共鳴者

闇の魔女が復活して世界を魔女の瘴気を包む中、リアは、魔女が復活した東の大陸で大量発生した魔物からエルフの里を守る為に戦っていた。


リアはクルスとの共鳴が途絶えてから必死に戦った。その経験がリアをエルフの剣士として強くした。


共鳴してた頃の威力は無いもののクルスが教えてくれた魔法を操りながら同時にクルスの存在を感じ取ろうと試みていた。


闇の魔女の復活が現実となり、国がが瘴気に覆われていく中、彼女は孤独に戦い続け、かつて共鳴したクルスとのつながりを再び求めて、心の中で必死に呼びかけていた。


「クルス……今、どこにいるの?またあなたの声を聞きたい……あなたの力を感じたい」


その瞬間、彼女の心に確かな反応が伝わってきた。ふっと胸が温かくなり、懐かしい共鳴の感覚が蘇る。彼が近くにいるような感覚に、リアは思わず目を閉じ、心の中で彼の名を繰り返し呼びかけた。


「クルス……!」


けれども、その共鳴の先から聞こえてきた声は、彼女が期待していたものとは違っていた。


「……誰だ……?」


そう、その声はクルスではなかった——


「(クルスじゃない…)私はリア。エルフの剣士……東の大陸にいる、魔女の軍勢と戦っている者よ」


アキラはリアの声が聞こえてもすぐには受け入れることができなかった。エルフなどという信じ難い話に巻き込まれている現実が、彼の心を不安と戸惑いでいっぱいにしていたのだ。


「…エルフ?本当に君はエルフなのか?その……異世界にいるっていうのも、本当なのか?」


リアは静かに答えた。

「信じがたいことかもしれないけれど、私にはクルスという共鳴者がいた。彼も別の世界から私の戦いを助けてくれていたわ」


アキラと同じようにリアもアキラという新たな共鳴者の存在に戸惑いを覚えていた。彼の声が心に響いても、簡単に受け入れることはできなかった。


彼女の中には、クルスへの想いと、再びつながることへの強い願いが深く根付いていたからだ。


「(……どうしてあなたが私と共鳴しているの?)」リアは心の中で問いかけたが、その答えが見つかることはなかった。


リアは、自分が今感じている共鳴の力を疑いの目で見つめていた。共鳴とは、魂が響き合い、相手の心を引き出すもの。


クルスと共鳴していたとき、彼とのつながりから湧き出る力が、自分を強く、そして温かく包んでくれた。それが今、別の存在と共鳴しているという現実に、どうしても納得がいかない。


「(クルス……私に答えて……あなたの力が、今必要なの)」


アキラの困惑も続く。

「君はどうやら嘘は言ってないらしい。だけど正直、どうして僕がこんな風に異世界とつながってるのかもわからないんだ。」


「ただ……君の声が聞こえるたびに、確かにこの不思議な力を感じる。でも、ただの高校生の僕が、君にできる事が何かあるのかな?」


リアにもアキラの困惑が伝わった。

「(この人も好きでこんな世界と繋がったわけではないんだ。今は私の感情よりも世界を救う事が先。共鳴者の力は私が1番知っている。)」とリアも考えた。少し沈黙した後、穏やかに言葉を続けた。


「私も最初はクルスがただの人間だと思っていた。だけど、彼は私に力をくれた。共鳴することで、私の力を引き出してくれたの。君も……そうなるかもしれない。だが、無理にとは言わない」


アキラはリアの言葉を聞きながら、心の中で葛藤が渦巻いた。信じたい気持ちと、現実感が乏しいことへの不安が交差する。だが、リアの声に含まれた切実な想いが、彼の心の奥底を揺さぶっていた。


「……この闇の中で、私はずっと戦っている。このエルフの里を守るため、そして……いつか、クルスと再び共鳴できる日を信じて」


リアの声に混ざる疲労と孤独が、アキラの心に深く響いた。彼女が感じている孤独、誰かに頼りたいのに、それを言えない強さ。アキラはふと、自分が助けを求めることができない彼女の姿に、自分の気持ちを重ねているのに気づいた。


「……君がそんなに強く、一人で戦っているのはすごいよ。でも……辛くないのか」


リアは戸惑いながらも返答した。

「……分からない。ただ、今の私にはこれしかないから」


その言葉を聞いたアキラは、初めて彼女の存在が自分にとって現実のものに思えた。彼女の言葉にある弱さや迷いが、リアがただの幻想ではなく、現実の存在であることを確信させてくれたのだ。


そして次第に、アキラの中にある感情が変わり始めた。

「僕がもし……君の力になることで、君が少しでも楽になるなら……僕が君の力になろう」


リアは静かに、だが確かに決意を固め始めていた。クルスへの想いが消えるわけではなかったが、彼の不在の中で戦い続けるためには、目の前にいるアキラの力を信じることもまた必要なのだと感じ始めていた。


心の中で複雑な感情が渦巻く中、リアはついに小さく頷いた。そしてアキラに向かって、ゆっくりと語りかけた。


「あなたの力を……今だけ、貸してくれないかしら?貴方の名前を教えて欲しい。」


「わかった。僕は…アキラだ。」


リアのその言葉は、彼女の中でアキラという存在を受け入れる覚悟の第一歩だった。彼女は、今必要な力を持つ新たな共鳴者と共に、厳しい戦いの中に踏み出すことを決めた。


アキラは共鳴者としてリアをサポートする決意を固めたものの、何をどうすればいいのか全く分からなかった。そのため、リアに思い切って尋ねてみた。


「リア、僕にできることって、具体的には何なんだろう?」


リアは少し困ったように微笑みながら答えた。


「正直、私も全てが分かっているわけじゃないの。

だけど、以前の共鳴者であるクルスには、スマホという機器に特別なアプリが現れて、それを使って私をサポートしてくれていたわ。クルスはメッセージと言ってたかしら、こうやって会話するだけではなく手紙のやり取りもやっていたの。」


「(…アプリで助けるだって?)」

その言葉を聞いて、アキラは自分のスマホを見つめてみる。すると、古代の文字のようなフォルダが自分のスマホに追加されていた。フォルダを開くとそこには見慣れないアプリが3つ、突然インストールされていた。


アキラはスマホの画面を見つめ、何度か瞬きをした。

アイテム生成クリエイトキャプチャファイル共有シェアリンク戦場解析バトルビュー……?」

インストールされているアプリの名前を繰り返してみる。


「これは、どういうことなんだ……?」と独りごちたその時、リアの落ち着いた声が彼の耳に届いた。


「それらのアプリがあれば、あなたも異世界から私をサポートしてくれる。前の共鳴者だったクルスも、同じようにこのアプリを使って助けてくれていたわ」


リアの言葉を聞きながら、アキラは未知の世界に足を踏み入れたような緊張感を覚えた。


確かに、このアプリの存在自体がすでに常識を超えているが、目の前にいるリアがどうにかして信じさせてくれているような不思議な感覚があった。


「そうか……じゃあ、まずは試してみるか」

アキラはそう言って、手始めにアイテム生成『クリエイトキャプチャ』をタップしてみた。すると画面に「作りたいアイテムを選んでください」というメッセージが表示される。


「作りたいものをリストから選ぶのか」

リストをスクロールしていると、「回復ポーション」が目に留まり、そこに指を合わせてみた。すると、画面が切り替わり、必要な素材が表示された。「ガラス瓶」「ハーブ」「水」……それぞれが、現実世界で手に入るものばかりだ。


「なるほど、現実で必要なものを集めて、写真を撮って生成するのか。これならなんとかできそうだ」


アキラはそうつぶやくと、まず家のキッチンから小さなガラス瓶を探し出した。


さらに、庭に行って手に入れたハーブと水を加え、素材が揃ったことを確認する。次々とスマホのカメラで素材の写真を撮っていくと、「アイテム生成可能」という表示が画面に出た。


アキラは生成ボタンを押し、しばらく待つと画面に完成した回復ポーションが映し出された。その瞬間、どこか現実と非現実の境目が曖昧になるような感覚に襲われた。


「これを、リアに送るんだよな」


アキラは今度はファイル共有シェアリンクを起動し、生成したポーションを選択して転送ボタンを押した。


画面が一瞬光を放ったかと思うと、遠く離れた異世界にいるリアの手元に、透明な小瓶が現れた。


リアはその小瓶を手に取り、驚きの表情を浮かべながらも、優しく微笑んだ。「すごいポーションが届いたわ。ありがとう、アキラ。本当に届くなんて……これがあなたの魔法なのね」


「本当に届いたのか?いや、僕こそすごいなって思ってる。……本当に異世界とつながってるんだな」

アキラは自分の手で異世界に物を転送できたことに、どこか現実感を感じられずにいたが、同時にリアの反応がその事実を確かにしてくれた。


次に試すのは戦場解析バトルビューだ。アキラはアプリをタップし、瞬時にリアのいる場所周辺の地形と敵の位置が画面に映し出されるのを確認した。その精密な表示に、アキラは少し興奮気味にリアに伝える。


「リア、君がいる周りの様子がスマホに映ってるよ。これなら、もし敵が近づいてもすぐに分かるし、攻める場所も指示できるかもしれない」


リアは彼の言葉を聞きながら、目を細めてうなずいた。「それなら、これからの戦いも少し楽になるわね」


アキラは慎重にリアの位置を確認しながら、画面に映る地図上の敵を注視していた。


「まずは君の右側にある小さな丘の上に移動してみてくれ。そこなら、敵からも見つかりにくいし、周りを見渡せる」


リアはすぐにアキラの指示に従い、丘の上に向かって軽やかに駆け上がった。そして辺りを見渡すと、彼が言った通り、魔物たちの姿が少し遠くに見える。


「アキラ、見えるわ。敵の位置も、私の方から確認できる」


アキラは次に、ファイル共有シェアリンクを使ってもう一本の回復ポーションを送り、リアに再び戦いに備えた準備を整えるよう促した。


「信じられないけど、家にいながらやれることはあるんだな」と、アキラはスマホを見つめながらつぶやいた。


リアはポーションを手にしながら、静かに応えた。「アキラ、ありがとう。これを使って戦うわ。」


その言葉に、アキラも胸が温かくなるのを感じた。アキラは自分がリアの力になっていることに誇りを感じた。

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