第15話 クルスの誓い
戦いが終わり、セルスはクルスと通話を保ったまま城へと急いだ。彼女の帰還を聞きつけた国王は、重々しい面持ちでセルスを迎え入れた。
周囲の兵たちも、戦場で見せたセルスの勇敢な姿に敬意を抱きつつも、少し距離を置いて彼女を見守っている。
「セルス、お前に共鳴者が現れたか?」国王の声には、どこか確信めいたものが感じられた。
セルスはうなずき、「はい、クルスという別世界の者と繋がっています」と、クルスと共鳴していることを率直に告げた。
国王は少し視線を遠くにやり、伝承にまつわる古の言葉を思い返すように語り始めた。「エルスフィアには伝承がある。共鳴者とは、ただの魂の伴侶に留まらぬ存在だ。闇の魔女解放の鍵であり、同時にその封印の鍵でもある、と」
セルスは一瞬、驚きを隠せなかった。「闇の魔女の封印……私たちの共鳴が、それほどの意味を持っているのですか?」
国王は静かにうなずき、まっすぐセルスの目を見つめながら、ふいに声を少し上げて言った。「共鳴者よ。私の声は聞こえているだろう?」
クルスの返答が耳に入ると、セルスはしっかりとそれを伝えた。「聞こえています、と言っています」
その言葉を受け、国王は安堵の表情を浮かべ、「まずは娘とこの国を救ってくれてありがとう」と言い、続けて問いかけた。「お主がこの世界に来てからの話を聞かせてくれ」
セルスはクルスに問いかけた。「クルス、今までのことを話してもらえる?」
クルスはスマホ越しに王の声が届く。その瞬間、胸の奥に湧き上がる想いが彼を突き動かし、セルスに声をかける。
「セルス君にも少し話を聞いてほしい。……僕のこと、そして、僕とリアのことを」
セルスは少し目を伏せてから頷き、「どうぞ、クルス」と小さく返事をした。その表情には緊張と期待が入り混じり、クルスの次の言葉に耳を傾けている。
クルスは深呼吸し、少し言葉を詰まらせながらも、ゆっくりと語り始めた。「……僕がこの異世界とつながることができたのは偶然の出来事だった。最初は驚きと興味だけだったけど、リアと出会ったことで、この世界が単なる幻想じゃないと確信したんだ」
セルスはクルスの言葉をそのまま国王に伝えるが、その内容を口にするたびに胸が締めつけられるような感覚に襲われる。
「リアは強かったし、いつも僕の指示に従って戦ってくれた。どんな危険な状況でも、彼女は……僕を信じてくれていた」
セルスの声が少し震えるのを、クルスは感じ取った。リアが彼にとってどれほど特別な存在であるかが、彼女の言葉を通じて自分の心にも響いてくる。
クルスは少し息を整え、「だけど、俺は……その信頼を裏切ってしまったんだ」と続けた。セルスがその言葉を繰り返すとき、彼女の声には微かに揺れる感情が混ざっていた。
「俺が不用意にリンクをタップしなければ、リアは闇の魔女と対峙しなければならない運命に巻き込まれることはなかった……。俺のせいで、彼女は闇の魔女が解き放たれた世界で、孤独に戦っているかもしれない。俺が彼女を危険にさらしてしまったんだ」
クルスの言葉を口にするたび、セルスの胸に少しずつ痛みが広がっていく。彼がリアをどれだけ大切に思い、どれだけ罪の意識に苛まれているか、その一言一言が彼女の心に深く刺さっていった。
「だから、俺はリアを救いたい。でもそれだけではない。俺がきっかけで復活した闇の魔女を倒すために。彼女にまた会うために、俺はできることを全部やろうって決めた。セルス、君と共鳴したのも、きっとこの世界で戦い続けるための力だと思う」
国王はクルスの答えを聞くと、冷徹な口調で言葉を続けた。
「お主は、自らは安全な場所にいながら指示を出し、その結果、闇の魔女の復活を許したのだ。その魔女の脅威によって、今や世界中の人々が震えている」
その言葉がクルスの心に鋭く突き刺さった。彼がしてしまった過ちが、改めて自分の前に突きつけられた。
「リアというエルフの少女を救いたいというのは、お主自身の想いに過ぎぬ。だが、今この世界を覆う脅威を生んだ責任はお主にもあるのではないか?」
クルスはその厳しい言葉に返す言葉を失った。彼は指先でスマホを握りしめ、王の言葉を噛み締めた。確かに、リアを救いたいという気持ちが彼の原動力だったが、彼が異世界に手を伸ばした結果として、闇の魔女が復活してしまったのは紛れもない事実だった。
「……リアを救いたいというのは、確かに俺個人の願いです。しかし、俺はその過ちを取り返すためにも、闇の魔女に立ち向かう覚悟をしています」
セルスは、クルスのその言葉を王に伝える際、ふと胸が締めつけられるような感覚を覚えた。クルスの言葉を口にするたび、彼の中にいるリアへの深い想いが伝わってきたからだ。
「俺はこの一年、ただリアを探すためだけでなく、闇の魔女を倒す力を手に入れるために努力してきました。俺には確かにリアを助けたい気持ちがありますが、それ以上に、この世界に降りかかる危機を解決する責任があると思っています。……どうか、それを信じていただきたい」
クルスの決意が、通じているはずの国王にどこまで届いているのか、それは分からなかった。だが、セルスの中でその想いがまっすぐに伝わってくるのを感じ、何とも言えない複雑な感情が渦巻いた。
彼女はクルスの言葉を口にするごとに、彼がどれほどリアのことを大切に思い、彼女のためにこの異世界に再び接触してきたかを理解していく。それは、自分のためにも今支えてくれているクルスの言葉を通して、リアが彼にとってどれだけの存在であるかを突きつけられているようで、彼女の胸の奥に微かな痛みが走るようだった。
王はしばし沈黙を保っていたが、やがて重々しい声で続けた。
「分かった。お主の決意はセルスを通じて感じ取れた。だが、ここから先はただの贖罪では終わらぬ。我がエルスフィア王国は、光の民たるエルフの末裔だ。我々もまた、リアというエルフの守護者を助けるために闘おう。そして封印ではなく、闇の魔女を永久に打倒することが、この王国の宿命なのだ。そのためには西の大陸のどこかに眠る光の力を見つけなければならない。」
クルスは胸の中でわずかな安堵を感じた。だが、王の声にはまだ鋭さが残っていた。
「クルスよ。お主にとって本当の試練はこれからだ。……セルス、この道は険しい。お前は他人を想い続けるこの共鳴者とともに歩む覚悟はあるか?平和な国からゲームをしている感覚しかない者かもしれぬのだぞ。」
セルスは王の問いに静かにうなずき、毅然とした表情で言葉を返した。
「はい、父上。クルスと共に、この困難な道を乗り越える覚悟があります。それは誰のためでもないこの国を救うためです。大体父上にクルスの何がわかるのです。偉そうに王座から見下ろして民に自らは畑仕事もせず税金を納めさせる。クルスと変わらないではありませんか。」
「それを言われると…ワシも…返す言葉がないわ。クルス改めて頼む。この世界を救ってくれ。」
その言葉を聞いたクルスは、胸の奥に新たな決意が沸き上がるのを感じた。彼はこの世界のために、そしてリアを助けるために、セルスと共に戦うことを心に誓った。
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