第8話 大広間の罠

リアは大広間の扉を開き、目の前の景色に息を呑んだ。視覚共有によってその光景はクルスのスマホにも映し出され、二人は一緒に古の書を見据えた。


広間の中心で、何か神秘的なオーラをまとった本がまるで待ち構えているように鎮座している。


「リア、あれが古の書か?」クルスが尋ねる。


リアは少し距離を置きながら古の書を見つめ、確信を持てない様子で答えた。「遠くてわからないけれど、おそらく……」


大広間には不穏な静けさが満ちていた。クルスはリアと古の書が揃うということが、闇の魔女の封印解除の条件が揃った可能性を示唆していると考え、慎重になるべきだとリアに警告した。


「リア、ここで古の書を見つけられたのは良いけど、あまりにも簡単すぎる……警戒を怠るな」


その瞬間、大広間の扉が急に閉じ、巨大な音が響き渡った。リアは剣を構えたが、すでに状況は動き出していた。


古の書が怪しく光り出し、まばゆい光が辺りを包み込む。そして、光が収束すると、その中心から巨大な龍が現れた。


「クルス、これって……」


クルスは急いでスマホでスクショを撮って、異世界ブラウザでその龍の姿を検索する。

「これは……リア、気をつけて!これは暗黒龍ディブロスだって。危険度は………SS!」


リアは目を見張った。ディブロスの漆黒の鱗が暗闇を映し出し、その瞳には凶暴な光が宿っている。


体全体がまるで暗黒の力で編み込まれているようで、その圧倒的な存在感がリアの身に重くのしかかってきた。


「エルフの伝承で伝説の……厄災をもたらしたと言われる暗黒龍だわ。私たちが本当に勝てるの?」リアは思わず声を漏らしたが、クルスは彼女を鼓舞した。


「今は視線共有シェアヴィジョンで繋がってる。必ず君をサポートする」


その言葉に背中を押され、リアは意を決して剣を構えた。彼女の視界に映るディブロスの動きが、クルスにもリアルタイムで伝わり、二人は完全な連携を取る準備を整えた。


ディブロスが激しい咆哮をあげ、空気が重く揺れ動いた。その瞬間、龍の口から炎のブレスが放たれ、猛烈な勢いでリアに向かって襲いかかってきた。


「リア、十詠唱の防御魔法を発動しよう!」クルスが即座に判断して指示を飛ばす。


リアはその言葉に従い、集中して詠唱に入った。「聖なる力よ、聖なる盾よ、我が身を守れ——聖盾の結界!」


三詠唱で発動した結界が、リアを包み込むように展開される。そして、迫りくる炎のブレスが結界にぶつかり、激しい光と音を発しながら耐え抜いた。しかし、その一撃の凄まじい威力で結界は大きく揺れ、今にも破壊されそうだ。


「リア、耐えろ!俺がすぐに次の魔法を探す!」クルスはスマホに集中し、さらに強力な防御手段を検索し始めた。


視線共有で繋がっている事もあり、いつもよりも臨機応変に対処できている。


リアは防御を維持しつつ、剣を握りしめて次の一手を待つ。「いける!これが視覚共有の力なのね。」


ディブロスが再び動きを見せ、その巨体を一気に振りかざして広間を揺るがした。リアとクルスは、この戦いが今までのどの戦闘よりも危険であることを実感していたが、二人の心は一つに結びついていた。


攻撃を悉ことごとく防がれたディブロスの巨大な体がゆっくりと動き出し巨大な咆哮を天に上がげる。


リアはその勢いに吹き飛ばされる。

「雄叫びだけでこれなの?」


広間の空気がさらに重く張り詰めた。


リアとクルスは、視覚と意識を共有しながらも、その圧倒的な威圧感に心が揺れるのを感じていた。


「リア、気を引き締めていこう。あの龍の攻撃はどれも強力だ。」クルスが焦る気持ちを抑えながら言葉をかける。


リアは剣を握りしめ、呼吸を整えた。「クルス、私は貴方と繋がっている。大丈夫。絶対に負けない!」


その瞬間、ディブロスの口元が再び開き、闇の波動が広がり始めた。空気が震える中、その波動は広間全体を呑み込みそうなほど大きく膨れ上がり、次の瞬間、激しい闇のエネルギーが一気に放出された。


「来るぞ、リア!」クルスが叫ぶ。


リアは咄嗟に剣を構え、闇の波動に立ち向かうための防御魔法を発動しようとしたが、その圧力は並大抵のものではなかった。彼女の結界が幾重にも広がっていくが、その強烈な闇のエネルギーは次第に防御を押し破ろうとする。


「このままじゃ耐えきれない……!」リアが苦しげに言葉を漏らす。


クルスは焦りながらも、魔法翻訳アプリでさらなる強力な防御手段を探し始めた。しかし、どの防御魔法もこのSSランクの暗黒龍の前では足りないと感じ、彼は改めてその脅威に直面した。


「リア、少しでも闇の力を削れるような攻撃を探してみる!」クルスは再び魔法翻訳アプリを操作し、ディブロスの弱点を探し始めた。検索に”ディブロス 弱点”と入れる。


そして、彼の目に映った魔法があった。


「リア、これだ……『精霊武装』。エルフの力で大地の精霊の力を纏い、君をパワーアップさせる魔法だ。十詠唱だが、三詠唱に短縮できる方法がある」


リアは力強く頷き、すぐに精霊武装の詠唱を始めた。「それはエルフに伝わる伝説の魔法。私に使えるのかしら…でもやってみる!大地の精霊よ、我が身に宿り、暗黒を払う力を授けよ――精霊武装!」


リアの体に柔らかな緑色の光が宿り、大地の精霊の力が彼女に注ぎ込まれた。


エルフとしてのリアの力がさらに引き出され、まるで自然そのものが彼女を包み込んでいるような感覚に満たされる。ディブロスの放つ圧力に負けず、リアは一歩前に進み、精霊の加護を感じながら剣を振り上げた。


「これなら、いける……!」リアは自信を取り戻し、再びディブロスに向かっていく。


精霊武装によって強化されたリアの攻撃は、ディブロスの鱗をかすかに傷つけ、その巨体が一瞬たじろいだ。しかし、ディブロスも負けじと再び闇のエネルギーを全身に集め、さらに強大な攻撃を繰り出そうとしている。


「クルス、ディブロスが本気を出してくるわ!」


クルスはその緊迫した状況に息を呑みながらも、スマホの画面を必死に見つめ、新たな魔法を探し出した。


「他にも使えそうなものはないか………あった!」


「リア、次は伝説のエルフの武器を召喚する魔法『精霊の剣』だ。これで君の攻撃力がさらに上がるはず!」


リアは再び詠唱に入った。全身の魔力を込め、精霊の剣を呼び出すための力を集中させる。


「精霊たちよ、我が力に応え、伝説の剣を現せ――精霊の剣!」


リアの手に眩い光を放つ剣が現れ、周囲の空気が震えた。その輝きはまるで神々しいまでの美しさで、ディブロスもその剣に目を向け、鋭い視線を向ける。


リアはその剣を構え、次の一撃を準備する。「ディブロス!この剣で切り裂いてみせる!」

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