第7話 リシアの地下攻略大作戦

クルスとリアは「リシアの地下」への潜入を前に、緊張した面持ちで作戦を立てていた。


「クルス、契約者が口にした『リシアの地下』……あれはやはり、黄昏の契約者の拠点なのかしら?」


「そうだと思う。でも気になるのは、彼らがリアをただ追っているだけじゃないことなんだよ。リアが“封印解除の鍵”だって言ってたのが引っかかる」


「つまり、私を捕まえて封印を解かせようとしている可能性がある……?」


クルスは頷きながら、真剣な表情を浮かべた。

「うん。だから、ただ潜入するだけじゃなく、罠も考慮しないと。もしかしたら、『リシアの地下』自体が僕たちを誘い込むための罠かもしれない」


「確かに、その可能性は高いわね……」


リアも厳しい顔つきになった。闇の魔女を復活させるための契約者たちにとって、彼女が重要な“鍵”であるなら、むしろ罠を仕掛けて待ち構えていると考える方が自然だった。


クルスは「リシアの地下」のマップを再確認し、危険な位置や安全に進めるルートについて考え込んだ。特に入り組んだ構造が目立つ地下3階には、一際広い部屋があり、真ん中にはピンク色の不明な印が表示されているのが見える。リシアの地下には30名以上は赤い点も見える。


「リア、この印はおそらく古の書のある場所かもしれない。でも敵は、君をここへ誘導するために何らかの仕掛けを用意してる可能性がある。慎重にいこう」


「わかった。なるべく戦闘は避けつつ進むわ」


「そうしよう。敵が30名以上いるって分かってるし、相手は俺たちが隠密魔法や影縛りを使うのを見てきたはずだから、対策してるかもしれない。だから別の方法で進もう」


クルスはさらにマップアプリを駆使して、迷宮のように入り組んだ「リシアの地下」を安全に進むための策を考えた。彼は新たな手段として、迷宮全体に「麻痺の霧」を充満させて敵の動きを止める作戦を思いついた。


「リア、この霧を発生させれば、迷宮中の敵を無力化できるはずだ。君が罠にかからないように道を作れる。名付けてバルサン大作戦」


「バルサン…?!って何?」

リアは聞き慣れない単語に聞き返す。


「いや、気にするな。さあ行こう!」

リアは慎重にうなずき、作戦の準備にかかった。



夜のリシアの地下、入り口に立ったリアは指示された位置に陣取り、静かに詠唱を始めた。


「霞よ、我が道を覆い、全ての敵を沈黙に誘え……麻痺の霧よ!」


彼女の詠唱に応じて、淡い紫色の霧が静かに広がり、迷宮の通路を覆い尽くすように広がっていく。


霧は壁沿いに伝って、迷宮の奥深くまで満ちていき、隠れていた契約者たちの周囲へと忍び寄った。


クルスはマップアプリを通して敵の動きを監視し、次々と動きが止まるのを確認していった。


「リア、霧が広がったよ。この隙に進んで」


リアは指示に従って、迷宮の道を急いだ。だが、その時、霧の中で不意をつかれた契約者たちが苦しそうに呻き声を上げ始めた。


「うっ……体が、動かない……! な、何だこの霧は……!」


「おい、まさか罠なのか!?」


「ま、麻痺して……くそっ……!」


敵は足や腕を動かそうと試みるも、痺れた体は反応せず、崩れ落ちていく。リアは彼らの動きを確認しつつ、大広間へ続く道を急いだ。


リアは、最も警戒すべき大広間の前に到着した。流石に最深部までは霧は届かない。霧を避けた見張り役の二人がそこに立ちはだかっている。


しかしそれも想定済みだった。クルスはマップアプリでその様子を確認し、リアに次の魔法を指示した。


「リア、この二人には『氷結の棺』を使おう。これなら素早く仕留められる。この二人が最後の敵のはずだ。」


リアは静かに剣を握り直し、再び詠唱を始めた。


「凍てつく氷よ、我が敵を包み、永遠の眠りに誘え……氷結の棺!」


リアの詠唱が響くと、冷気が彼らの足元に広がり、瞬く間にその体を包み込んでいった。氷の棺に閉じ込められた敵は、完全に動きを封じられてその場に凍りついた。


リアは、広間に続く扉に手をかけようとしたその時、クルスから急報が入った。


「リア、後ろだ構えろ!霧を避けてきた敵がすごい速度で近づいてきてる!」


リアはすぐに振り返り、剣を構えた。霧を無力化する手段を持っているのか、他の契約者とは異なる鋭い気配がひしひしと迫ってくる。


リアは強く息を整え、クルスからの次の指示を待ちながら、迎え撃つ準備を整えた。


リアが敵と対峙し、冷静に相手を見据えていると、目の前の男が不敵な笑みを浮かべ、冷ややかな声で言い放った。


「お前、本当にエルフか?まるで全て事前にわかっているかのようじゃないか」


その言葉に、リアは眉をひそめた。敵のその冷静な眼差しと鋭い言葉から、ただの追っ手ではない、何か特別な力を持つ相手であることが伺えた。


「私がエルフであるとか貴方には関係ない。ここで貴方を倒す、それだけだ」


リアが剣を構えると、男は鼻で笑い、手をかざして暗い光を纏い始めた。


「お前の力がどれほどか、見極めさせてもらおうか。」


リアはその言葉を無視し、全神経を研ぎ澄ませた。相手がどのような攻撃を仕掛けてくるか、そのわずかな兆候を逃さないように集中する。


クルスも状況をスマホ越しに観察し、リアの戦闘を支援するため、すぐに魔法翻訳アプリで対策を検索し始めた。


「リア、強力な防御魔法の一つ、『聖盾の結界』を試そう。詠唱を三詠唱に短縮できるから、相手の力をまず見極める防御として役に立つはずだ」


リアはクルスの指示を受け、詠唱に入った。


「聖なる力よ、我が盾となり、闇の力を防げ。聖盾の結界!」


リアの周囲に眩い光が広がり、結界が形成された。それと同時に、敵は暗黒の魔法を放ち、闇の力が螺旋状にリアに迫ってきた。しかし、結界がその闇の力を打ち消し、衝撃波だけが周囲に散らばる。


男は少し驚いたように眉を上げた。「ふん……なかなかやるな」


リアは素早くクルスに次の指示を求める。「クルス、彼の魔力の動きが異常に速い。もう少し持続力のある防御が欲しいわ」


クルスは魔法翻訳アプリで検索を続け、「影防壁」という持続力のある防御魔法を提案した。


「リア、影防壁なら防御を持続できるし、周りに影を広げて攻撃の隙を狙える。詠唱は三詠唱だけど、短縮詠唱を使えば、隙を見逃さず反撃できるはずだ」


リアは剣を構え直し、再び詠唱を始めた。


「大地の力よ、我が盾となり、我が敵を包み込め――影防壁!」


リアの周囲に影が覆い尽くし、男の視界が一瞬遮られる。その一瞬を見逃さず、リアは男の死角に回り込むと同時に剣を振りかざし、一気に攻撃を仕掛けた。


しかし男もただの相手ではなかった。男はその気配を察知し、間一髪で回避して反撃の構えを取る。


「ほう、やはりただのエルフではないようだな。ならば……これでどうだ!」


男は再び暗黒の力を集中させ、周囲の空気が一気に重くなる。リアはその強烈な圧力を感じ取りながらも、クルスの声を聞き逃さなかった。


「リア、次は聖属性の一撃が効くはずだ。『神聖の閃光』を使ってみて!」


リアは再度集中し、クルスの指示に従って光の力を剣に込めた。


「神聖なる光よ、闇を打ち砕け――神聖の閃光!」


リアの剣が輝き、敵に向かって放たれたその一閃が闇の力を貫いた。男は聖なる力に包まれ、身動きが取れなくなり、痛みで顔を歪めた。


「リアが「神聖の閃光」を放ち、眩い光が男を包み込むと、敵は一瞬たじろぎ、身動きが取れなくなった。その痛みと驚きに表情を歪ませながらも、彼は呟いた。


「ぐっ……これほどの力を持つとは……だが、お前誰と喋ってる?なぜ八詠唱級の魔法をそんなに短詠唱で使える……?」


リアがその言葉にわずかに反応すると、男は薄笑いを浮かべながら、一つの答えにたどり着いたかのように、静かに言葉を続けた。


「そうか、そういうことか……共鳴者がいるのか」


彼の視線は鋭くリアを見据えていた。彼女がただのエルフではなく、何か特別な力を得ているのだと確信したような眼差しだ。その視線には、彼女に隠された謎を見抜こうとする不気味な執念が漂っていた。


リアはその視線に怯まず、剣を構え直し、強い意志を込めて答えた。「何がどうかなんて、あなたには関係ないことよ」


男はその言葉に一瞬口元を歪め、最後の力を振り絞って言い放った。


「貴様の力の源は……まだ全てはわからないが……次に会う時を楽しみにしているぞ……」


その言葉を最後に、男は影の中へと消え、姿を消していった。


クルスはリアに問いかける。

「リアどうなった?倒したか?くそ音声では詳細がわからない」


「クルス大丈夫。敵は影に消えていったわ。マップで周りを警戒してくれる?」

リアは冷静にクルスに警戒を依頼する。


「大丈夫だ。異常はない」クルスはマップを確認して異常がない事を伝える。


「ここが目的地ね。古の書を取り戻さないと。」


「リアここからは何があるかわからない。視覚共有シェアヴィジョンを使おう。」


リアはクルスと共鳴して繋がる。その瞬間二人の心と身体が一つになる確かな感触があった。


クルスのスマホにリアの見ている景色が広がる。


その光景はゲームに出てくるという感じだった。壁には見慣れない文字で何かが書かれていて、なんとも不気味な光景が広がっていた。


音声のみのデータから画像データに切り替わった事でそこが本当に異世界なんだとクルスは強く感じた。(こんな不気味な所にリアは怖がりもせずたった一人で…)


リアは今まで以上にクルスを近くに感じ勇気が溢れてくる。「クルス貴方とは離れているけど貴方を近くに感じる」


そのリアの声にクルスは気を引き締めて答える。

「俺もだリア。さあ一緒に進もう。」

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