第6話 反撃の狼煙

クルスとリアは状況を打開する作戦について話し合っていた。

「リア、やられてばかりではジリ貧になっていくと思うんだ。そろそろ攻めに転じないか?」


「それは賛成だけどどうするつもり?」


「そうだな……」


このままでは次第に追い詰められる。リアはクルスと共に契約者の一人を捕らえ、必要な情報を引き出す作戦を立てた。


「では、束縛して情報を引き出そうか。具体的な作戦だけど………。」




夜の街、広場にはほとんど人影がなく、リアは自ら囮となるべくわざと目立つ行動を取り、契約者たちの注意を引きつけていた。黒いローブをまとった契約者の一人が暗がりからこちらを見つめ、気づいたように追跡を開始する。


「クルス、契約者が動き出したわ」リアはクルスに囁く。


「よし、予定通りだね。今から安全なルートをナビゲートするから、そのまま罠の位置まで誘導して」


クルスはマップアプリでリアの位置と契約者の動向をリアルタイムで監視し、リアが慎重に彼を指定された場所へ誘導できるよう、声をかけ続ける。リアは路地を曲がり、細い道を進みながら追跡者をさらに引き寄せていく。


やがて指定された待ち伏せ場所に到着すると、リアは姿を消す準備にかかった。



契約者の姿が近づくと、リアは「隠密の魔法」を発動し、完全に気配を消した。彼女の姿が急に見えなくなり、追っていた契約者は一瞬混乱し、足を止めて周囲を見回す。クルスはマップアプリで契約者の動きを見つめ、タイミングを見計らう。


「今だ、リア。『影縛りの拘束』を使おう」


リアは指示通り、影縛りの魔法の詠唱を始めた。


「影よ、我が敵を縛れ!」


彼女の詠唱が響くと同時に、影が契約者の足元に集まり、がっちりと絡みつく。動きを封じられた契約者は驚きの表情を浮かべ、身動きが取れなくなってしまった。


リアは拘束された契約者の前に姿を現し、魔法翻訳アプリで見つけた「自白の魔法」を発動した。


「私をなぜ追うの?」リアの問いに、魔法がかけられた契約者は反抗することなく答え始めた。「古の書は……すでに我らの手にある。しかし……お前が必要だ。封印を解くためには……お前が鍵となる……」


その言葉に、リアは一瞬身震いした。彼らがリアを封印解除の「鍵」として狙っていることが確信に変わる。


クルスは音声を聞きながらマップアプリで周りを警戒していると急速に近づく赤い丸がある事に気づく。


その時、クルスはリアに叫んだ。「リア、近くにもう一人いる!3時の方向に炎属性の魔法を放つんだ!」


リアはその瞬間詠唱を始める。「大地の炎よ燃やし尽くせ」、暗がりから別の契約者が現れ、拘束されていた仲間に向かって鋭い刃を突き立てた。


その瞬間リアはその契約者を炎の魔法で焼き尽くすが、暗殺はギリギリ防げなかった。息絶えつつある拘束された契約者は、最後の力を振り絞り、「……リシアの……地下に……」と言い残し、力尽きた。


「くそ!情報を引き出す事ができなかった。俺がもっと早く気付いていれば!」


「クルス自分を責めないで。あなたがいなければ断片的な情報すら手に入れる事ができなかったわ」


クルスは契約者が残した『リシアの地下』に関して調べる事にした。もう一つリアが封印を解く鍵というのも気になる。


「リア、俺はこれからリシアの地下について調べてみる。何かわかったら連絡する」


リアとクルスは、この断片的な手がかり「リシアの地下」を頼りに、黄昏の契約者と闇の魔女の封印解除計画を阻止するための新たな手がかりを探す。



クルスは「リシアの地下」について異世界ブラウザで調べていくうちに、そこが黄昏の契約者の拠点であり、闇の魔女復活を目的とした儀式の場である可能性が高いことを突き止めた。


リシアの地下のマップを開くとかなり入り組んでいてまるでダンジョンのようになっていた。敵の数も多そうだ。


地下3階に一際広い部屋を見つけた。その真ん中にピンク色の見慣れない丸があった。


「リアは青、敵は赤、ピンクはなんだ?もしかしてこれは探し物の場所を示しているのかもしれない。だとするとここに古の書が置かれているのか?」


「奴らはリアの事を封印を解く鍵だとも言っていた。罠も仕組まれているかも」


ふと先日の契約者が死の直前「リシアの地下」と最後に漏らした場面を思い浮かべる。


「うん、これも含めて罠という可能性も考慮が必要だな」


リシアの地下の危険性を知るたびに、リアを支える自分のサポートが本当に十分か、不安が募っていく。


「このままじゃ、リアを守りきれないかもしれない……」


クルスは改めて現状のサポートを見つめ直し、現在の連携の課題を整理し始めた。


まず、視覚情報の共有がないことで、リアの音声だけを頼りに指示を出す今の方法では限界がある。リアが見ている世界をクルスも共有できれば、リアの状況をより正確に理解し、タイムラグなく支援できるはずだと考えた。


「音声じゃなくて、リアの視覚情報も共有できたら……」


リアは以前、「共鳴」が鍵になると話していたのを思い出す。彼女が誰かに助けを求めたときの強い気持ちが、異世界にいるクルスとつながる共鳴を生んだ。


そしてメッセージも、リアの「伝えたい」という気持ちが共鳴となり、二人の間で通信が実現した。もしリアがクルスに視覚を共有したいと強く願えば、それも共鳴によって実現できるのではないかと考えた。


また、魔法の検索スピードも問題だった。魔法翻訳アプリで検索するたびに時間がかかり、リアが窮地に立たされることもあった。魔法を効果で絞り込み、すぐに適切な魔法を提示できれば、彼女に迅速なサポートができるだろう。


クルスはまず、この二つの問題を解決するため、アプリ開発に本腰を入れた。これまでのアプリ開発は趣味程度だったが、リアを守るために本格的に取り組むことを決意する。学校の休み時間も惜しまず、アイデアを練り、手を動かした。


しかし、実際に開発を進める中で、クルスは自分の知識と技術の限界を痛感することになった。


既存の機能を活かしつつも、新たな視覚共有機能や魔法検索機能の追加には、より高度な技術と知識が必要だったのだ。コードの難解な部分に行き詰まるたびに、自分の未熟さが身に染みて感じられ、歯がゆさを覚えた。


「今の僕の知識だけじゃ、リアを完璧にサポートするには足りない……」


クルスは改めて自身の成長の必要性を痛感した。リアを助けるためには、今以上に技術力を磨き、アプリ開発の知識を深める必要がある。


彼女が危険に直面したときに、どんな状況でも適切な支援ができるように、自分はもっと成長しなければならない――その思いが、彼の胸に強く刻まれた。


その後、何日間も学校も行かずに試行錯誤しながら二つのアプリをクルスは完成させた。


新機能「オプティ・ソーサリー」

魔法翻訳アプリに「効果でのソート機能」を組み込み、必要な魔法が素早く選べるように改良。目的に応じた魔法がすぐに表示されるため、戦闘中のリアの状況に合わせて迅速に指示を出せるようになった。


新機能「シェア・ヴィジョン」

視覚情報の共有アプリも完成し、リアの視界をクルスのスマホに映し出せるようにした。異世界のマップと連携し、敵の位置も把握できるように設定。リアが共鳴の力で視覚を共有したいと強く願えば、このアプリを通じて視覚情報もリアルタイムで受け取れるようになる。


完成したアプリを確認し、クルスはリアにメッセージを送信した。


「リア、新しいアプリが完成したよ。『オプティ・ソーサリー』で素早く魔法を検索できるし、『シェア・ヴィジョン』で君の視覚情報も共有できるかもしれない。これで、もっと君をサポートできるはずだ」


しばらくしてリアから呼び出しがかかり、クルスは彼女と通信が繋がる。


「クルス、本当にすごいわ……これで、戦いの時ももっと安心して動けそう」


「喜んでもらえてよかったよ。さっそく機能を試してみようか?」


クルスは、まず「オプティ・ソーサリー」の検索機能を試し、リアが使えそうな聖属性の魔法を検索する。リアも指示に従って詠唱内容や魔力の使い方を確認し、すぐに使えることを実感した。


「これなら、緊急時にも迷わず魔法を使えるわね。クルス、ありがとう」


「それじゃあ、次は『シェア・ヴィジョン』を試そう。リアが視覚を共有したいと願えば、僕に君の視界が映るはずなんだ」


リアは少し緊張しつつ、目を閉じてクルスと視覚を共有したいと強く願った。


その瞬間、胸の奥で微かな響きが広がり、心の奥底でクルスと繋がるような感覚が生まれた。クルスの声がいつもより近くクリアに聞こえる。今まで感じたことのない、一体感に似たこの感覚に、リアは少し戸惑いつつも温かさを感じていた。


「これが……誰かとつながるということなの……?」


リアが目を開けると、クルスのスマホに彼女が見ている光景が映し出されていた。


異世界の街並み、風に揺れる木々の様子、彼女が見ているすべてがリアルタイムでクルスに伝わっている。


「リアの視界が見えてる!これが君が住んでいる世界なんだね。よかった成功だ」


クルスが興奮気味に声を上げると、リアも笑みを浮かべた。「本当に不思議な感じ……でも、あなたと一緒に戦っているみたいで心強いわ」


二人はその瞬間、深いところで心と身体が結びついたのを感じていた。


リアはふと、クルスに尋ねた。「ねえ、どうしてそこまでしてくれるの?」


クルスは少し考えたあと、静かに言葉を紡いだ。「僕にはずっと特別な目標もなくて、ただ毎日を過ごしていただけだった。でも、リアと出会って、君が僕を頼ってくれることで『誰かの力になれる』って思えたんだ。だから、君を守りたいし、支えたい」


リアは彼の言葉に驚き、少し目を伏せた。「……私はエルフの剣士として、一族の誇りを背負ってきた。でも、古の書のことがどうしても不安で……本当は、怖いの」


自分が弱音を吐いていることに気づき、リアは一瞬戸惑った。彼女は誇り高い剣士としての役目を守り通してきたが、クルスには素直に心を開いてしまう自分に驚いていた。


「こんなこと、誰にも言えないのに……」


クルスは静かに彼女の言葉を受け止め、優しい声で答えた。「リア、どんなに強い人でも、不安や弱さを抱えることはある。でも俺がいる。」


リアは彼の言葉に心が温かくなり、少し安堵の息をついた。「ありがとう、クルス……あなたがそばにいてくれると、心が軽くなるわ」


「よし、それではリシアの地下攻略に向けて作戦を立てよう!」

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