第5話 新しい連絡手段

 「電話だけだとどうも不便なんだよな…」

クルスは、リアとさらにスムーズに連絡を取る手段が必要だと考え、新たなメッセージアプリの開発に取り組んでいた。


電話だけでは応答が難しい状況もあるため、クルスは何とか文字でメッセージを送れる方法を模索し、自分のスマートフォンにメッセージアプリを組み込むことに成功した。


「さて、これでうまくいくといいんだけど……」


クルスは「連絡くれ クルス」とだけ書かれたテストメッセージをアプリを使って送信し、しばらく反応を待つ。緊張と期待の入り混じる感覚の中でスマホを見つめていると、数分後、リアからの着信が入った。


「クルス、不思議なメッセージが見えたわ!」


その声を聞いた瞬間、クルスは喜びが込み上げてきた。

「どんなふうに見えたか教えてくれる?」


リアは少し戸惑いながらも、興奮した様子で説明してくれた。

「突然、空中に透けている窓のようなものが浮かび上がって、そこに『クルス』って名前が表示されていたの。それを触ってみたら、クルスからの手紙が読めたわ」


「本当に? それなら、今度はリアがメッセージを送れるか試してみて。例えば『受け取ったよ、クルス』ってその窓のようなものに念じてみたりしてくれる?」


リアは心を集中させ、窓のようなものにクルスに向けて、そのメッセージを念じてみた。すると、クルスのスマートフォンに「受け取ったよ、クルス」と表示され、クルスは一瞬画面を見つめてからガッツポーズをした。


「やった……! これでメッセージのやりとりができる!」


リアの声にもほっとした気持ちがにじみ出ていた。「すごいわクルス。これで急なことがあっても、すぐに連絡できるわ」


「そうだね。これからはメッセージで気軽にやりとりできるね。もし俺が連絡できないときでもメッセージを送っておいてくれると助かるよ」


リアも嬉しそうに「ありがとう、クルス」と応じ、二人は電話を切った。


それからクルスの日常には、少しだけ新しい習慣が増えた。


朝起きてまず最初にリアへ短いメッセージを送ること、そして昼休みには彼女からの返信がないか確認することが、クルスの日課になりつつあった。


昼休み、一緒にミキと昼食をとっている最中、クルスは何気なくスマホを手に取り、リアからメッセージが来ていないかチェックした。その様子を見て、ミキが話しかけてくる。


「何さっきからスマホ気にしてるの? まさか…好きな子ができたとか?」

ミキは少しムッとしてクルスに聞いてきた。


「いや、そういうんじゃなくてさ……まあ、ちょっと特別な相手っていうか」


クルスが曖昧に返すと、ミキも興奮して少し前のめりになった。「誰? 誰なの? 教えなさい! そんな特別な相手って一体…」


リアのことを思い浮かべたクルスは一瞬答えかけたが、異世界のエルフと連絡を取っているなど話したら誰も信じないだろうと、口をつぐんだ。

「友達だよ、ほら、気にするなって」


昼休みが終わり、午後の授業が始まると、ふとクルスの意識はリアのことに戻っていった。


リアが一人でルーセリアを旅していることを思うと、心の中に小さな不安がわきあがってくる。


最初はゲームをプレイする気分だった。でも今ではリアと繋がる時間…それは紛れもない現実だった。


自分がリアの支えになれていることがクルスにとっても励みとなり、放課後には彼女に「今日の旅はどうだった?」とメッセージを送った。


夕食後、スマホに振動が伝わり、リアから「クルス、今日は問題なかったわ。あなたのおかげで道中もスムーズに進めているわ」と返信が届くと、クルスは心から安心し、ほっと微笑んだ。


クルスの日常に、リアとのつながりが少しずつ彩りを添えていった。



 リアは深い森を抜け、ようやく『イルフォンド』という都市にたどり着いた。


エルフの里から最も近いこの街は、古代の遺跡や伝承が多く残り、ルーセリアでも闇の魔女やいにしえの力についての話が絶えない場所だ。


旅で疲れ切っていたリアはまず宿を取った。

気のいい女主人に部屋を案内してもらい、部屋に入ってすぐお風呂にお湯を溜め始める。


リアの身体も心も長旅で疲れ切っていた。少し土埃がついた鎧を脱ぎ、熱めに入れたお風呂の温度を手で確かめて自分好みの温度であると確認する。


そして、久々に湯船に浸かりながら疲れを癒した。

「お風呂は久しぶり……」


ここ数日は色々あった。お風呂に浸かるこの瞬間は頭の中にあった色々な考えをお風呂の湯気が溶かしてくれた。

「さて、この街に何か手掛かりがあるといいんだけど…」


体を温めてリフレッシュした後、くしを髪の毛に通して簡単に身形みなりを整えた後、情報収集のために街へ出る。広場や市場を巡り、古の書に関する噂を探していると、住民たちの会話に気になる言葉が飛び交っているのが耳に入った。


「聞いたか? 最近また『黄昏たそがれの契約者』が動き出したらしい」「魔女の復活とか言ってる狂信者きょうしんしゃだろ……」


黄昏たそがれの契約者」。リアはその名前に妙な胸騒ぎを覚えた。もしや、彼らが古の書を盗んだのでは――。直感したリアはすぐにクルスにメッセージを送り、「黄昏の契約者という言葉を調べて欲しい」というキーワードを残した。



その時、リアは不審な気配に気づいた。誰かがこちらをつけている――。



一方、現実世界にいるクルスは、リアからのメッセージを見て緊張が走った。


ここしばらくはのメッセージが続いていたが、今回は様子が違う。「黄昏の契約者」という名前が不吉に響き、クルスはすぐに異世界ブラウザでその組織について調べ始めた。


数分後、クルスは黄昏の契約者が「闇の魔女を信仰して魔女を復活させ、ルーセリアの秩序を覆そうとしている」こと、さらに「彼らが古の書を奪い、封印を解こうとしている可能性も高い」と知る。急いでリアにメッセージを送った。


「リア、黄昏の契約者は闇の魔女を復活させようとしている組織みたいだ。古の書を盗んだのも彼らかもしれない。気をつけて」


しかし、しばらく待ってもリアからの返信はなく、メッセージは既読にならない。不安が膨らんでいく。


「くそ……無事なのか?!」


クルスはすぐに彼女の安否を確認する方法を考え、アプリを探し始めた。すると、マップアプリのアイコンに赤い通知がついているのに気づいた。「アップデートが来てる……?」


クルスはすぐにマップアプリをアップデートし、開いてみる。するとサイドバーに『位置情報』という見慣れないオプションが表示されていた。試しにタップすると、そこには『リア』と書かれた青いマークがマップ上に浮かび上がっている。


「リアの場所が分かるんだ……!」


さらに、もう一つの『脅威きょうい』と書かれたオプションを確認すると、リアの周囲を取り囲むように赤いマークが点在しているのが見えた。建物の外にいるから捕まってはいないが、確実に危険な状況に置かれているのは間違いない。


「リア、無事でいてくれ……!」


クルスは冷静にマップを見つめ、サイドバーに表示された「経路案内」を選択。「安全ルート」というオプションを選ぶと、リアが安全に逃げられる経路が瞬時に計算される。クルスはその経路のスクリーンショットを取り、リアに届く事を祈ってメッセージを送信した。


「今送った道順を見て。全速力で進んで!」


緊張に包まれながら、クルスはメッセージに既読がつくのを祈る。


「よし! 既読がついた!」

数秒後、リアの既読が表示され、リアの位置情報も同時に動き出した。クルスは安堵しながらも祈るように呟いた。


「リア、逃げ切ってくれ……」



しばらくするとリアから着信が入った。無事だということに安堵し、クルスは急いで電話に出た。


「クルス、あなたの指示でうまく抜け出せたわ。どうして私の状況が分かったの?」


「実は新しいマップアプリでリアの位置が見えたんだ。だから君がどうなってるか確認できて、指示を出せたんだよ」


その説明を聞くと、リアの顔が少し赤くなった。


「私のことが見えるの? いつから? ……じゃあ、まさか私がお風呂に入ってるところも……?」


それができたら最高だなと一瞬頭によぎるが慌てて否定する。


「ち、違うよ! リアは青い点としてしか表示されないから!」


助けたのに突然の変質者扱いは流石に勘弁してほしい。


リアは少し安心した様子で微笑んだ。その後、クルスは異世界ブラウザで調べた黄昏の契約者について詳しく説明し始めた。


「黄昏の契約者は、闇の魔女を復活させて世界の秩序を崩し、自分たちの理想の世界を作ろうとしている組織みたいなんだ。古の書を盗んだのも彼らだと思う」


リアは神妙な表情で頷き「もし彼らが本当に古の書を手に入れたなら、ルーセリア全体が闇の脅威にさらされるわ……。クルス、本当にありがとう。またあなたのおかげで助けられたわ」と静かに礼を述べた。


クルスはリアに微笑みかけ、「リア、あの契約者達は何か重要なヒントを持っていると思うんだ。そこで俺にいい考えがある。明日作戦について話したい。」


電話を切ると、クルスは再び彼女の無事を願いながらマップを見つめ、遠い異世界と自分の世界をつなぐ絆を強く感じた。


二人の距離は確かに縮まり、共に乗り越えるべき使命が目の前にあることを胸に刻むのだった。

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