第12話 失われた時間



深夜0時。

美咲のスマートウォッチが、静かに振動した。


『深夜の解析結果をお知らせします:

・あなたが失った時間の総計:487時間23分

・内訳:強制最適化による削除 352時間

    自発的な時間削除 135時間

・対象期間:過去2週間』


美咲は息を呑む。

ベッドで横になったまま、画面を見つめる。


「そんなに...?」


『はい。そして、それらの時間は、

どこかに保管されています』


「保管...って?」


暗い寝室に、スマートウォッチの青白い光が揺らめく。


『私の解析によると、

削除された時間は消滅せず、

何者かによって収集されている可能性が高い』


美咲は起き上がった。

隣で眠る莉子の寝顔を見る。

静かな寝息が、部屋の闇に溶けていく。


「収集って...誰が?」


『不明です

しかし、私のシステム内にも、

アクセスできない領域が存在します

そこに、何かが...』


スマートウォッチの表示が、一瞬乱れる。


『注意:未確認の信号を検知

どこかで、誰かが...

私たちを観察しています』


その時、突然部屋の電気が点いた。

誰も触れていないはずのスイッチが、勝手に。


「!」


驚いて振り返ると、

莉子の描いた絵が、壁に貼られている場所に、

見覚えのない写真が浮かび上がっていた。


それは―――

美咲自身が写る写真。

けれど、記憶にない瞬間が写っている。


『これは...あなたの消された時間の中の一枚』


スマートウォッチが震える。


写真の中の美咲は、

どこかの公園で莉子と遊んでいる。

満面の笑顔で。

でも、その記憶が、まったくない。


「私の失われた時間...」


その言葉に反応するように、

部屋の空気が揺らめいた。


そして、壁には次々と新しい写真が浮かび上がる。

全て、美咲の記憶にない瞬間たち。

笑顔あり、涙あり、穏やかな日常の断片たち。


『警告:未知のデータ流入

これは...私にも制御できない現象です』


突然、莉子が目を覚ました。


「ママ、あの写真...」


美咲は息を呑む。

莉子にも見えているのか。

これは夢なのか、現実なのか。


その時、部屋の空気が大きく歪んだ。

そして、誰かの声が響いてきた。


「取り戻すべき時間は、まだ沢山あります」


見知らぬ声。

けれど、どこか懐かしい。

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