第19話 穀物



 しばらくのにらみ合いのあと。

 上手いこと和解できたのか、固く握手を交わすギデオンと商人だった。


 よく分からないが、解決したならいいのだろうと無理やり納得するウィリアム。エリザベスとの付き合いでこういう対応にも慣れてしまったらしい。


 さて。そのエリザベスといえば。露店の前でしゃがみ込んだまま、商品の一つであろう穀物を凝視していた。

 ウィリアムに植物に関する知識はないが、大麦や小麦だろうか?


「……店主。この作物は売り物かな?」


 どこか高貴さを感じさせる雰囲気に、エリザベスの正体を知らないはずの店主すら畏まり対応する。


「は、はい。私の生まれた国で主食として食べられている穀物です」


「売り物なのかな?」


「はい。こちらの国の人はあまり興味を抱かないようですが、大麦や小麦とはまた違った料理が楽しめまして――」


「すべて買おう。在庫はどれくらいある?」


「へ? すべて、ですか? あの、試しに食べてみたりしなくてもいいんですか?」


「あぁ、大丈夫だ」


「こ、こちらの穀物は少々特殊でして。大麦や小麦とはまた違った脱穀を……」


「心配いらないよ。よく知っている・・・・・・・からね」


「は、はぁ……?」


「売るために持ってきたなら大量にあるのだろう?」


「か、借りている倉庫に行けば、木箱二つ分ほど」


「ほぉ。ずいぶんと量があるね。極東の島国ジールングとの交易路を確保できているのかな?」


「……お嬢さん。あっし、出身国を教えましたっけ?」


「交易路を確保できているのかな?」


「……はい。船で一年ほどかかりますが」


「極東への交易路となればヒスパニアやポルラッシュが熾烈な開拓争いをしているだろう? 危険はないのかい?」


「えぇ、その辺は、奴らも知らない特殊な航路を使っていますので」


「興味深いね。そのあたりの話はまた後日また聞くとして……まずは穀物の取引といこうじゃないか」


 エリザベスがポケットから金貨5枚を取りだし、店主に投げ渡した。


「木箱二つ分だったね? すべて買い取ろう」


「へ? し、しかし、これは少し多いのでは……?」


 見た目が幼女であるエリザベスから金貨を受け取るのは気が引けるのか。あるいは逆に異様な雰囲気を放つエリザベスに萎縮しているのか、先ほどのギデオン相手とはまた違った反応をする店主だった。


「なに、気にするな。ジールングからこの国まで持ってくるのは大変だっただろう? その手間賃だと思ってもらっていい」


「ですが……」


「あとは、個人的に、キミとの繋がりを確保しておきたいからね」


「…………。……承知いたしました。有難く頂戴いたします」


 店主は恭しく一礼したあと、自分が借りているという倉庫にエリザベスたちを案内した。





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