第14話 一体何歳?
「――やぁ、みんな集まったみたいだね?」
まるで頃合いを見計らったかのようにエリザベスが部屋に入ってきた。
この部屋には中心に円卓があり、王を招いたときのためか玉座が設置されているのだが……。本来であれば王が座るべき玉座に、エリザベスがさも当然であるかのような顔をしながら腰を下ろした。
頬杖を突いたエリザベスがイタズラっぽく頬を釣り上げる。
「さて、私の演技はどうだったかな?」
演技とは、国王に対する年相応の少女のように振る舞っていたアレか……。
エリザベスの問いかけに、まずは宰相が全肯定した。
「さすがの一言で御座います」
続いて海軍大臣が深々と頭を下げる。
「王女殿下の機転によって主力艦の数が減らずに済みました。感謝申し上げます」
「自分からも感謝を。まずは海軍が敵艦を蹴散らさなければ大陸に軍を派遣することもできませんからな」
陸軍大臣も感謝の意を表した。
「しかし、民間の大型船を買い取りですか……。また財政が圧迫されますね」
やれやれといった感じに眼鏡のズレを直すのは財務大臣。そんな彼に対してエリザベスが労いの言葉を述べる。
「すまないね、予算が厳しいなら少し小さい船にしてもいいから……」
「……いえ、鉱石の輸入に使うなら大きい方がいいでしょう。金勘定は私の仕事。お任せください」
「うん、じゃあ任せようかな」
まるで
(ギデオン、これは一体どういうことだ?)
(どうもこうも、『王女派閥』の会合ってところか)
(王女派閥……?)
それではまるで、後継者争いをしているようではないか?
現状において国王は壮健であり、しばらくは代替わりの話も持ち上がりそうもない。そんな現状においてもう『王女派閥』を形成する意味とは……?
「それだけあの王子に危機感を抱いているということだ」
と、そんな答えを口にしたのは宰相であるリチャード。
「し、しかし父上。王女殿下はまだ10歳。王子殿下は9歳ではないですか。危機感を抱くもなにも、これからの教育次第なのでは?」
「――その教育がマズいのだ」
つまらなそうに吐き捨てたのは陸軍大臣。
「王子殿下の母親の実家はウィリアム公爵家。あの家は次男が『教会』の枢機卿であり、教会とはずいぶんと深い仲だからな。このまま王子殿下が後継者になられては、せっかくそぎ落とした教会の権勢が回復してしまう」
「…………」
つまりは単純な『王子vs王女』ではなく、『教会勢力vs王権』という構造になりかねないのか。それに危機感を抱いた者たちが早くから結託していると。
しかし、王女派の顔ぶれは……宰相と、海軍大臣、陸軍大臣、そして財務大臣。これはもはや
「王女殿下ほど国王に相応しい御方はおられぬからな」
「殿下は海軍の重要性を理解してくださっていますし」
「領土獲得のためならとにかく、くだらない教会の命令で我が部下たちを戦死させるわけにはいきませんからな」
「王女殿下は財政出動派なので財務状況は厳しくなりそうですが……国家予算を教会に流用しかねない連中よりはマシでしょう」
口々にエリザベスを評価する大臣たち。
「いやぁ、照れるねぇ」
そんな彼らからの評価を受け、ポリポリと頭を掻くエリザベスであった。
「とはいえ、そう簡単にはいかないと思うけどね」
「? そうなのですか?」
「うん。なにせお父様は私を後継者にしたくないみたいだから」
「あぁ……」
あの溺愛っぷりでは、苦労も多い『国王』を継がせたくはないのだろう。それに今までも女王はいるにはいたが、あくまで王子がいなかったからこその代理王という位置づけなのだから。
舐められたり軽視されたりするのが分かっている女王などに、愛娘をしたくはないといったところか。
ウィリアムが納得しているとエリザベスが手のひらを叩いた。
「さて。せっかく皆が集まったのだ。今後の方針の話し合いといこうじゃないか」
エリザベスが仕切り直しとばかりに口を開くと、財務大臣が異を唱えた。
「そこの若造も参加するのですか? 信頼できる人間ですか?」
若造とはもちろんウィリアムのことだ。ギデオンも同い年であるはずだが、彼は何度かこの会合に出席しているらしいので除外されたのだろう。
財務大臣からの疑問にエリザベスが即答する
「あぁ、信頼できる。それに、将来のことを考えると今から若い人材を育てないとね」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
この場にいる全員の心が一つになり「いや殿下が一番若いでしょうが」とツッコミを入れた瞬間だった。もちろん心の中で。
「ここで重要なのは精神年齢だよ」
心の声を呼んだのか、あるいは表情から察したのか、しれっとそんなことを口にするエリザベス。現在10歳の彼女はウィリアムやギデオンよりも精神年齢は上だと言いたいらしい。普通なら「ふざけるな!」となるところだが、エリザベス相手だと不思議と納得してしまう。
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