第1章 おっぱい

6日後の退院となり、4月いっぱいは妹の家で滞在する事になった。


私達夫婦には子供がいないが、退院日は旦那さんは勿論、妹と一緒にお迎えに行った。


初めて抱っこさせてもらい

「うちの子になるか〜?」と半分冗談で言うと、赤ちゃんはニコーっと笑ってくれた。


まさかのまさかの反応に驚いた。


天からの使いかと直感した。


一年前に亡くなって天国に逝った黒猫黒ちゃんの生まれ変わりかとも思った。


赤ちゃんの腕や背中を見ると、黒い産毛が生えているから尚更そう思えるのだ。


あるいは、10年前に流産した男の子がやっとこの世に生を授かったのかも知れない。


1800gの18センチで真っ赤な紅の血に包まれた赤ちゃんは何処かで彷徨っていた。


『欲望こそ珠玉の果て』『赤夢の夜』というタイトルで小説を書き始めたが未完成のまま、何処かへ消えてしまった。


私達夫婦の為に、瑠華ちゃんは命懸けで赤ちゃんを産んでくれた事に、感謝を申し上げたい。


子供だと思っていた瑠華の顔が母の顔になっていた。


みんなこうして、母親になっていくんだ。

我が子を守る為だけに必死なんだ。


瑠華が

「動物とは違う可愛いさだ」

と言っていた。


猫好きな私にとっては、理解出来ないが、

母親の気持ちをリアルに聞けた気がする。


赤ん坊っていうのは、実はこの親を選んで来ているのだ。

この親なら大丈夫と … 。

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